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死刑囚

作者: 歯磨き子
掲載日:2025/12/11

 高等学校の同級生を殺めた容疑で逮捕され、死刑判決を下されたA(仮名)は、つい先日にその死刑が執行された。死刑執行後日、担当の獄吏は生前のAから頼まれていた独房にある彼の遺書を発見することに成功した。遺書の内容はこの上なく酷いため、連中は当時明るみに出すことはしない予定であったが、マスコミの強引な要望に押し負けたため地上波の放送によってその内容は公開された。以下は遺書発見当時の記録である。


────年 ──月 ─日 記録No.157(最終)

記録者氏名:─── 記録対象氏名:────(A)

記録・報告内容:

 以前────(A)から頼まれていた、彼の遺書を発見しました。内容は全て読みましたが非常に胸糞の悪いものでしたから、これは世間に出さず関係者にのみ限定して閲覧を許可する方針が良いかと。情報を欺瞞する形にはなってしまいますが、結局のところ公開してしまっても輩は文句を言うでしょうからね。元本も添付していますが、文字が見にくいので内容を理解しやすいよう以下にも全文を書いておきます。


 まず僕は殺人を犯したことについて全く後悔や反省はしていない。だからこの『犯した』という表現に対しても僕にとっては似合わないと思っている。『達成』や『成し遂げた』という言葉こそ相応しいというものだろう。僕と僕が殺したあいつは高校に入学してから出会った。僕は第一の印象から既に傲岸不遜な野郎だというのを抱いていた。偶然、席が近かったので話さざるを得なかったのだが、あいつは毎度の如く僕を傷つける言動を行った。決して世間での所謂『愛のあるいじり』ではなかった。それはあいつの言葉を真正面から食らった僕が一番分かっているので、これは誰にも否定させない。また、そんな奴の鼻を叩き割り、現世から抹殺した僕の功績は、特に当時の同級生の諸君からは絶対に認められるべきだと思う。加えてあいつは暴力も振るった。運動ばかりやっているあいつは力が強かった。余計に鍛えられた肉体を非行に駆使するあいつが僕は赦せなかった。なお、これは僕の勝手な正義感による憎しみではない。当然ながら僕もその非行に被害を受けた一人であって、抹殺を実行したのは僕の私怨によるものであることは確かである。陳腐な勧善懲悪などではない、一幕の復讐劇であったというわけだ。当初の予定はあいつだけでなくあいつの家族も諸共あんな奴に育て上げてしまった責任として殺すつもりであったのだが、あいつの家族に与えたいものの本質は死そのものではなく苦痛であるため、是非とも息子を失ったことをゆっくりと咀嚼しながら引き摺りたまえよ、という魂胆の下敢えてあいつの家族は殺さないことにした。言わなくとも勝手にやるとは思うが、これを読んでいる警察諸君は何としてでもあいつの遺族に見せてくれたまえ。きっとこの魂胆を知ることでより一層苦しむことになるであろう。民衆の愚民共は恐らく僕のことを人殺しの道化だと罵るだろうが、果たして悪者はどちらなのか。結局のところ、争いというものは己の正義を賭した戦いなのであって、客観的に見てこちらが悪者でこちらが善人であるだとか、そんな評価は僕としては全く取るに足らないものである。担任の教師は無能であった。悪逆非道たるあいつの蛮行の一切を、その立場にありながら座視した。目下の問題児を認めなかったのだ。この惨憺たる事件が起こったのは担任が自己保身に走った故だという責任転嫁を行うつもりはなく、寧ろ僕こそがあいつを怨んで殺したのだということを喧伝して欲しいのは変わりないが、しかし担任も少なからずこの事件が起こる前に対応を行わなかったということは留意したまえ。努々、忘れることのないよう。僕はこれから絞首刑によって死んでしまうわけだが、この世に産まれ、生きた率直な感想を最期に述べよう。僕は、苦しかった。

────(A)


 以上を以て記録・報告とし、また────(A)の死刑が執行されたためこれを最後の記録とする。

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