第8話「ギルド登録、冒険者への第一歩」
王都からの召喚令状を受け取った翌日、俺たちはギルドに再び足を運んだ。
朝の広間は人で賑わい、依頼掲示板の前には冒険者たちが群がっている。
視線が俺に集中した。
囁き声が聞こえる。
「影潜りの男だ……」
「盗賊団を潰したってやつか」
「でも、王都に呼ばれたんだろ? 危ねえな」
好奇心と警戒心が入り混じった視線。
俺は慣れたように肩をすくめた。だがルナが袖を握る小さな手の震えを感じ、心の奥がざわついた。
受付嬢が俺たちを奥の部屋へ案内する。
机の上には分厚い台帳が広げられていた。
「これが正式な冒険者登録手続きです」
俺たちは既に“仮登録”で昇格試験を受けた。だが王都からの召喚に応じるには、正式な身分が必要だという。
名前、生年月日、スキル、得意分野。
俺は書き込み、最後に“影潜り”と記した。
受付嬢はその文字を一瞥してから、静かに告げた。
「正式登録をもって、あなたは冒険者となります。依頼を受け、報酬を得る資格があります」
木製のカードが手渡される。黒い縁取りに、俺の名が刻まれていた。
冒険者証――それはこの世界で生きるための通行証でもある。
「おじさん! やったね!」
ルナが跳びはねるように喜び、リクも笑った。
「これで堂々と街を歩けるな。あんたの名はもう、ただの噂じゃない」
俺はカードを握り締めた。
無能と呼ばれた俺に与えられた、初めての“肩書き”。
小さな木片が、胸の奥でずしりと重い。
だが安堵は長く続かなかった。
ギルドマスターが現れたのだ。
白髪まじりの壮年で、鋭い目をしている。
彼は俺を見据え、低く言った。
「影潜り。お前の力は確かに役立つ。だが王都が動いた以上、お前は注目されすぎている」
「……わかっています」
「これから王都へ行くのだろう。その前に一つ忠告だ」
マスターの声は重かった。
「“影”は人を救うこともあれば、呑み込むこともある。……お前がその境界を踏み越えたとき、この街は二度とお前を受け入れんぞ」
警告とも、期待ともつかない言葉。
俺は黙って頷いた。
王都への道は遠い。
旅の準備を整え、街を出る計画を立てる必要がある。
その前に――試しに小さな依頼を受けることにした。
討伐対象は、街の外れの草原に現れる“牙ウサギ”。
獰猛で跳躍力が高く、初心者が手こずる相手だ。
草原に出ると、青空の下を風が吹き抜けた。
群れを成す牙ウサギが、赤い目でこちらを睨む。
「行くぞ!」
俺は影に潜り、ウサギの足元から飛び出す。
拳を叩き込むと、衝撃で地面に沈み込む。
「きゃっ!」
ルナの影から石が飛び出し、別のウサギを直撃。
リクが横合いから短剣を突き立て、鮮やかに仕留めた。
三人の連携は、すでに自然なものになりつつあった。
討伐を終え、証拠の牙を持ち帰ると、ギルドで報酬が支払われた。
銀貨数枚。
決して大金ではないが、初めて“正当な対価”を得たことに胸が熱くなる。
「おじさん! これでご飯食べられるね!」
「いや、それだけじゃなく宿代も払える。今日は路地裏じゃなく屋根のある場所で眠れるぞ」
ルナが目を輝かせる。
リクも満足げに頷いた。
夜、宿のベッドに横たわりながら、俺は天井を見上げた。
影が静かに揺れる。
神に無能と切り捨てられた俺が――。
今は冒険者として、仲間と共に生きている。
だがその影の奥に、まだ不穏な気配が潜んでいるのを感じる。
王都の召喚、影を操る賊。
それらは必ず、俺を待ち受けているだろう。
「……行こう。影が示す先へ」
小さな声で呟き、目を閉じた。
第8話ここまで




