第2話「最下層の街、影潜りの力」
翌朝。
目を覚ますと、石畳の冷たさが背中に残っていた。
夜の路地裏で眠り、何度も蹴飛ばされそうになりながらも、どうにか追い出されずに済んだ。
腹は空っぽ。
食い物を探すしかない。だが金もない。
「……やるしかないな」
俺は試しに近くの屋台に近づいた。香ばしいパンの匂いが腹を刺激する。
手を伸ばしたい衝動をこらえ、影に意識を沈めた。
――ズブリ。
自分の影と、屋台の下に落ちる影とが繋がる。
そこから手を伸ばすと、まるで闇のトンネルを通るように、パンの底に触れた。
「……マジか」
取り出したのは小さなパン。手の中に温かさが残っている。
罪悪感が胸を刺したが、背後で小さな声がした。
「……おなか、すいた」
振り返ると、昨日助けたあの少女が立っていた。
髪はぼさぼさで、服は擦り切れ、足は裸足。年は十歳にも満たないだろう。
「お前……昨日の……」
「わたし、ルナ。助けてくれて……ありがとう」
彼女はぺこりと頭を下げた。
その動作で、骨ばった背中が見えてしまう。痩せすぎだ。
俺は迷わずパンを差し出した。
ルナは目を輝かせ、一口かじると涙をこぼした。
「……あったかい……」
胸の奥に熱いものが広がる。
盗んだパンでも、彼女にとっては生きる糧になる。
それから俺とルナは一緒に過ごすようになった。
路地裏の隅に、廃材を積んだだけの寝床を作る。
俺が影を使って食料を調達し、ルナが洗濯や片付けをしてくれる。
「おじさん、すごいね」
「……おじさん、って歳か? まあ、否定はしないけど」
笑い合う。
だが現実は厳しい。路地裏の最下層には盗賊崩れや乞食が溢れていて、弱者はすぐに食い物を奪われる。
俺は考えた。
影潜りの応用を――。
ある夜。
盗賊がルナの持っていた食料を狙ってきた。
俺は咄嗟に影に潜り、そいつの背後に現れ、拳で沈める。
さらに影に引きずり込み、足を縛るように絡め取った。
「うわっ!? なんだこれ! 足が抜けねぇ!」
盗賊はパニックになり、仲間が助けようとしたが、影の中に手を入れた瞬間、腕ごと沈みかけて悲鳴を上げた。
俺は言った。
「影は俺の領域だ。ここで俺に敵うと思うな」
盗賊たちは青ざめ、食料を放り投げて逃げ出した。
ルナは怯えながらも俺を見上げた。
「……こわかった。でも……守ってくれて、ありがとう」
俺は拳を握りしめた。
あの時、神は俺を無能と断じた。
だが――。
「この力で……生き抜いてやる」
自分のためだけじゃない。
目の前の小さな命を守るために。
影は俺を包み込み、背中を押すように揺らめいた。
第2話ここまで




