第5章 クルグ
五竜館に入って周りを確認した。
「敵は居ない。2階への階段がすぐそこにある。登ろう。」
僕たちは急いで階段を登った。もうすぐで2階となった時に、
「お前たちは何者だ?」
声をかけられた。声の方を見ると、先ほど居た1階に体格の良い男性が立っていた。
「ハロルド嬢様に会いに来ました。」
「何目的だ?」
「みーちゃんの好物を持ってきましたので。」
「そうか。ハロルド嬢様のお部屋は、そこを左に曲がって、突き当りを右に行き、2番目の扉だ。」
「スリープ。」
僕は念のため、魔法をかけた。
「あ?なんだ?このクルグ様に魔法かけたか?なぜだ?」
「やばい、魔法効かなかった。」
僕は小声でオリバーに言った。僕の眠り魔法は、訓練している者には効かないことがある。
「俺に魔法をかけるってことは、お前たち、敵だな?」
「いえいえ、スリープ。スリープしてらっしゃるかと思いまして、ハロルド嬢様が!」
僕は慌てて嘘で取り繕った。
「そうか、確かにお前は魔法が使えるようには見えないな。ハロルド嬢様は今、読書の時間だ。」
なんか馬鹿にされた気がするが、仕方ない。今の僕はそんな実力だ。
「ありがとうございます。」
そう言って、僕たちはハロルド嬢の部屋へ向かった。
「このクルグ様が、そんな手で騙される訳がないだろ!」
男性が後から殴りかかってきた。さっきまで距離があったのに、この短時間で音を立てずに階段を登ってきている。僕たちは何とかクルグの攻撃をかわした。
「なるほど、挟み撃ちにしてくるとはな。」
階段の上でクルグの攻撃をかわした際、僕は左へ、オリバーは右へよけていた。狙ったわけじゃないけど。クルグは僕とオリバーの中心に横向きに立ち、交互に見て、様子を伺っている。クルグの武術は強いと肌感覚で分かる。いくら挟んでいると言っても、間合いに入るのは危険だ。
「挟まれるのが嫌なら、階段下りれば?」
「そうか、なるほどな。数歩下がれば、挟まれることは無くなるな。」
その間に攻撃されるのを警戒して、クルグは僕たちを交互に見ながら、ゆっくり下がった。
「リモデル」
僕は小声で魔法を唱えた。次の瞬間、階段を踏み外したクルグが1階まで転がり落ちた。痛そうにしているクルグの元へオリバーが素早く駆け付け、一撃を加えて意識を失わせた。
「階段が急に坂になっていたけど、何で?」
「魔法で改造した。そいつには魔法がかからないけど、他の物にはかけられるから。」
「こいつが馬鹿で助かったな。仲間呼ばれたら、こっちが不利だった。」
「ああ、武術は強いけどね。見つかると厄介だから、そいつ隠してくれない?」
「OK。」
オリバーがクルグを物陰に隠して、階段を登ってきた。
「階段、元に戻っているね。」
「僕のこの魔法は5秒しか持たないから。」
「そうか。」
オリバーと合流し、男性に教えてもらったハロルド嬢の部屋に向かった。
突き当りを右に曲がった所で、
「あ、居た居た。」
とのプリンの声。目の前にプリンが居た。
「え?なんで。」
「起きたら、二人とも居ないんだもん。ひどいよ、置いてくなんて。」
「いや、失神していたから。どうやって来たの?」
「エリルさんにお願いした。初めは渋っていたけど、30ベル払ったら、魔法でオズさんの近くに飛ばしてくれた。」
「あいつ移動魔法も使えたのかよ。」
「まあ、金はとるけどな。」
「パーティーなんだから、一緒に行くでしょ。」
プリンが強引に加わろうとする。
「回復魔法1回しか使えない、すぐ失神する、そんな足手まといは要らない。」
はっきりと断ることがプリンのためだと思った。このままパーティーの一員として連れて行くのは危険すぎる。
「私だって、役に立つわよ。じゃあ、もし、役に立ったら、今後はちゃんと連れて行くと約束できる?」
「ああ、分かったよ。役に立ったらな。」
3人で僕たちは、ハロルド嬢の部屋の扉をノックし、中に入った。