第4章 エリル
「おう、お前たちか。あら、そちらの可愛い子ちゃんは?」
エリルが店先に出てきて言った。あまり話したことはないが、同級生の顔は覚えているようだ。
「初めましてプリンです。オズさん、オリバーさんのパーティーに加わり、クエストをしています。」
「あれ、オリバーは親の跡継ぐって聞いていたが?ああ、オズに感化されたか。お前はまだ勇者目指しているってな。」
エリルが馬鹿にした目で僕を見た。
「もうこんな奴頼らずに行こうぜ。」
僕は他の二人に言った。
「お、何か頼みごとかい?」
「猫探しのクエストをしていて、エリルはサーチ魔法得意だったと思い出してね。」
ふて腐れる僕を尻目に、オリバーが答えた。
「ああ、得意だね。道具の在り処も分かって、便利な魔法だから。」
「お願いできるかな?」
「ああ、代わりに回復飴2個で10ベル、買ってくれるかな?」
みんなの視線が僕に集まった。このパーティーのリーダーは僕だ。僕に最終的な決定権はある。
「うちにはヒーラーが居るので、回復飴なんかいらないな。」
「なんだよ。じゃあ、こっち。毒消し1つ20ベルにするか?」
「なんでより高いものを。いらないって。」
「あの~、私ヒーラーですけど、まだ1日1回しか回復魔法使えなくて。しかも、今朝使っちゃいました。」
「え?」
場が凍り付いた。進級も危うい、落ちこぼれ学生とは言え、ギルドに登録してクエストをやるっていうのに、そのレベルとは…。
「あ、でも、私の武器は魔法だけじゃないの。例えばほら、私の笑顔、みんなを癒すって言われています。」
そう言ってプリンは微笑んだ。ま、まあ、可愛い。いや、問題はこの先のクエストに回復道具の必要性が増したことだ。
「でも、猫探しのクエストだからな。回復飴を使うまでもない。」
僕は強がった。
「本当に大丈夫か?その猫、五竜館に居るぜ。」
エリルがもう既に居場所を特定していたようだ。
「五竜館!」
そう言ってプリンが倒れそうになったのを慌てて僕は支えた。治安の悪い東町の中でも五竜館はその中心に近く、不良がたむろするアジトの一つだ。奴らのテリトリーに入ったら、確実に攻撃してくる。
「オズさんも回復魔法使えるだろ?」
オリバーが聞いてきた。
「使えるけど、戦いながら魔法は出来ない。集中しないと魔法は使えない。回復飴なら口に入れとけば、自然に回復するし、仕方ない。回復飴をもらおう。」
「2個でいいかい?」
「ああ、2個だ。」
「ほい、10ベル。」
僕は財布から10ベル出して払った。プリンはまだ意識を失っている。
「プリンをお願いできないか?回復魔法も使えないなら足手まといなだけだ。」
「ああ、毒消しも買ってくれれば、ベッドに寝かしとくよ。」
「ちっ、仕方ない。買うよ。」
「はい、毎度。」
僕は更に20ベル支払った。
「ああ、そうそう。その猫の今の居場所、正確には五竜館の2階、ゲージに入っているな。」
「ありがと。」
僕は合計30ベル支払い、やられたな~という思いを表情に出しながら答えた。ただ、エリルは金に五月蝿いだけで、嘘はつかない。プリンの事もちゃんとしてくれるだろう。
僕とオリバーは五竜館に向かった。
「でもゲージに入っているって言っていたな。」
「飼われているってことか?捕まっているってことか?」
「分からない。猫が勝手に動かないのは、探し易くて良いけど、五竜館の人と話をつけるとなると、厄介だな。あれが五竜館か。」
遠くの方に五竜館を見つけ、急に小声で話した。もうこの辺りは、奴らのテリトリー。不審者と思われると全員で攻撃してくる。
「おい、お前ら何だ?」
後ろから声をかけられた。振り返ると、こん棒を持った男達が居た。いや、もうその瞬間に僕たちは周りを囲まれていた。
「この猫を探していまして。」
僕は正直に話した。
「これは、みーちゃんか。」
「ご存じですか?」
「その猫を見つけてどうする?」
僕の質問には答えず、男達は聞いてきた。
「飼い主が探していまして。見つけたら、飼い主に渡します。」
「飼い主は、ハロルド嬢様だろうが!」
男たちはこん棒を振り回してきた。急な攻撃が僕の顔にクリーンヒットし、僕は飛んでしまった。オリバーが一人で頑張って男達と戦っている。剣は抜いていない。相手のこん棒を取り上げ、それを振り回している。僕も戦わなきゃ、と慌てて、回復飴を頬張り、痛みを治しながら、
「スリープ」
魔法を使った。周囲に居た男達は一斉に倒れ、眠り出した。
「なんとか間に合ったかな。」
「ああ、俺にも回復飴くれ。」
「いや、今は敵が居ないから、俺の回復魔法で。ヒール。」
「え~甘い物食べたかったのに…それにしても、人相手の戦いはやりにくいな。不良とはいえ、剣で傷つけるわけにいかないし。」
「ああ、そこで前にやられた手をふと思い出した。」
「ああ、そうか。あの時の裏でこっそり眠り魔法か。」
「こうやって経験を積んでいくしかないな。」
僕たちは、回復の後、五竜館入口の重い扉をゆっくり開けて入った。