第3章 プリン
朝10時にギルド前でオリバーと会って中に入る。ここ1週間、前もって約束してないのに、お互いにそうしていた。
「おはようございます。あ~あなたたちね。」
受付と挨拶する。
「今日はどうかな?」
「昨日、あの後、初心者のヒーラーが登録に来たから、勧めといたわよ。10時に来なさいって。」
「ありがとうございます。」
その時、カランコロンと入口の扉を開ける音が鳴り、そちらを見た。
「すみません。転んで治していたら、少し遅れちゃいました。」
小柄、黒髪で青い眼の可愛い娘が入ってきた。
「ああ、プリンさん。いらっしゃい。昨日話していたのは、この人達です。」
受付が僕たちを紹介した。
「あなたたちが、ヒーローズですね。初心者ながら、5位のパーティーと戦ったっていう。私、プリンです。」
その後秒で眠らされた話が抜けている?と思ったが、受付はお構いなしの顔をしている。
「まず、自己紹介をしよう。僕は、オズ。第108期目の卒業生で剣術は2位。魔法も初期魔法は大体使える。」
「そして、俺がオリバー。親が剣術道場をやっている。同じく第108期目の卒業生で剣術は1位。ただ、魔法は使えない。」
「え~と、私はプリン。第110期生で回復系魔法が少し使えます。」
「じゃあ、2歳下かな。」
「そうですね。じゃあ、オズさん、オリバーさんと呼びますね。」
「さん付けは恥ずかしいから止めてよ。」
「そういえば、2ヶ月先輩でしたね。オズさん。」
「オリバーまで…まあいいや。まだ学生なのに大丈夫?」
「このままですと弱くて進級出来ないのです。でも、5級クエストをクリア出来れば、進級貰えますので。」
「え、そのレベルなの?」
「はい。」
プリンは笑顔で答えた。
「この時期はそういう人がたまに来るのよ。でも、強いパーティーには入れないから、あなたたちなら、と思ってね。」
受付が経緯を説明した。
「いつまでも待つより、ヒーラー加えて簡単なクエストやる方が良いか…5級クエストってどんなのですか?」
僕は受付に聞いた。
「5級クエストで今一番簡単そうなのは、キンダケを1㎏取ってくるクエストね。」
「キノコ採ってくるだけかよ。」
オリバーが不服そうに答えた。
「でもね、このキノコは洞窟の奥に生えていて、魔物の好物でもあるから、遭遇することも多いらしいよ。あなたたちはこっちの6級クエストから始めた方が安全よ。」
そういって、受付は紙を僕たちに見せた。紙には、猫の写真と探しています、の文字。
「今度はペット探しかよ。」
「うん、この大きさの猫は城壁を超えられないから、街の中にはいるはず。だから、魔物には出会わないクエストよ。」
「そんな便利屋みたいなクエストは嫌だな。」
「でも報酬は5万ベル。このクラスだと破格の報酬が付いているわ。」
「5万あれば、一振りで複数の敵を倒せるカマイタチの大剣が買えるな。」
とオリバーの目が輝いた。
「いや、お前の武器に全振りって。当然3で割るだろ。」
「ちぇっ。こつこつ貯めるしかないか。」
「私は武器とか防具とか重い物は持てませんので、報酬はなしで良いです。ただ、単位だけ貰えれば。」
「単位…やっぱり5級クエストかな。」
「あなたたちにはまだ早いわ。長年受付やっている私の勘は大体当たるのよ。」
「う~ん。」
僕は悩んだ。
「私は、とりあえず6級クエストからで大丈夫ですよ。」
「なるほど、プリンがそう言ってくれるなら、まず猫探しクエストを行おう。その報酬でカマイタチの大剣を買って、強くした上で、キノコ狩りクエストを行う。これでどうだ?」
「剣買ってくれるのか!」
オリバーの目が再び輝きだした。プリンも頷いている。
「じゃあ、このクエスト受注ね。その紙は持って行っていいわよ。」
受付が猫の写真の紙を指さした。
猫をもう一度眺めた。首に赤いリボンを付けた白猫。目はプリンと同じ青色だ。
「これ以外の情報は?」
「この猫の毛が、確か…あ、これね。」
「では、それを1本頂きます。」
僕は左手の人差し指と親指で毛をつまんだ。
「サーチ」
呪文を唱えると毛がクイッと動いた。
「これは東の方角かな。」
「凄い。そんな魔法使えるのですね。」
プリンは羨望の眼差しで僕を見た。
「同級生でこれが出来たのは1割だけだったな。」
得意げに僕は答えた。
僕たちはギルドを出て、猫の毛が指す東の方角へ向かった。
「おい、ここ行き止まりじゃないか。」
猫の毛が指す方向には塀があった。
「この魔法だと方向しか分からないから。この塀乗り越えるか、回り道するか。」
「この塀乗り越えたら、人の家にお邪魔することになるな。」
「この辺って大丈夫ですか?東町は治安悪い地域って聞いたことがあるのですが。」
「そうだね。トラブルは避けたいから、回り道して、なるべく大通りを通ろう。」
「あ~あ、もっと上級のサーチ魔法使えれば、楽ですけどね。」
オリバーが嫌味ったらしく言った。
「でも、上級のサーチ魔法使える奴なんて、同級生だとエリルぐらいか。」
「ああ、あいつは親父の道具屋を引継ぐらしいな。」
「もったいないね。でも、あいつお金に汚いし、あまり好きじゃない。」
「パーティーには加わらないだろうけど、ここから近いし、猫の居場所を聞きに行ってみるか。」
僕たちはエリルの居る道具屋へ向かった。