第2章 サビージョ
「ふああ~」
僕は身体を伸ばし、大きく欠伸をした。隣にはオリバーが寝ている。あのままギルドの床の上で寝ていたようだ。
「目が覚めましたか?」
ギルドの受付が声をかけてきた。
「ああ、あいつらは?」
「もうとっくに出ていきましたよ。」
「おい、オリバー起きろ。」
オリバーを揺らし、声をかけた。
「これがオリバー様の剣捌きだ。まいったか。」
「おい、起きろって。」
「ああ、あれ、夢か。」
オリバーが起き上がった。
「あいつらはもう居ないよ。」
「くそ、卑怯な。」
「でも、あれが経験の差だろうな。学校では、武術も魔法も、1対1でそれもルール内でしかやってない。だから、眼の前の敵に目を奪われ、奥で魔法かけてきていることに気付けなかった。実戦では大人数を相手にすることやルール無視で戦うのが当たり前で、それを卑怯と言っているうちは、青二才と呼ばれるだろうな。」
「そうよ。あんな男臭いパーティーでもちゃんと連携しているし、あれがこのギルドで現在5位のパーティーなのよ。」
受付が情報をくれた。
「ちなみに僕達は?」
「もちろん、圏外よ。実績ないから。」
「上に行くには?」
「クエストをこなすか、強いメンバーを入れるか、ね。そういえば、現在4位の人って誰とも組まないのよね。現在最強の魔法使いと言い切れるわ。さっきの男臭いパーティーが誘った時も魔法であっという間に全員倒したわよ。」
「サビージョさんの事か?」
オリバーには心当たりがあるようだ。
「そう、その人よ。」
「よし、その人を誘ってみよう。」
僕は出口に向かおうとした。
「いや、止めとけって。変人って聞いたぞ。」
オリバーに引き止められた。
「何度か受付で対応したことがあるけど、確かに変わった人ね。あなた達のように初めてここに登録した時、仲間になる人が来ないかずっとその席で待っていたの。初心者の仲間なんてそう来ないから、帰りなって言っても聞かず、ずっと閉店まで。翌朝来たら、さらにびっくり。もう彼は門の前に居て、昨日からずっとそこで待っていたと。それが1週間続いて。一度も家に帰らない姿におちょくったギルドメンバーが街の外まで飛ばされてね。それで、実力ありそうだってなって、1位のパーティーから声がかかったの。でも、なんだ、1位でその程度か、って言ってそれから一人で時々クエストこなしている。そんな人。」
「じゃあ、強いな。」
「いや、そこじゃない。明らかに変人。1位が声かけてその感じじゃあ、俺等には無理だろ。」
「声かけるだけでも、行ってみようよ。」
オリバーをなんとか説得し、北町のサビージョの家に向かった。
「ここだな。」
奇抜な形の家で、目立っている。呼び鈴を鳴らしたが、出てくる気配はない。
「居ないのかな。」
「夜に再度来てみるか。」
「いや、僕は待つ。サビージョなら、そうするだろう。」
「相手に合わせなくても。夜なら明かりで居るかどうか分かるだろうし。」
「オリバーは帰っても良いよ。僕はここでずっと待つから。」
「しょうかねえな。俺も待つよ。」
その後も何度か呼び鈴を鳴らしたが、出てこず、辺りは暗くなってきた。すると、家の明かりがついた。
「あれ、居るのかな?」
もう一度呼び鈴を鳴らす。返事が無いので、
「サビージョさん!」
と大声を上げながら、ドアをノックした。でも出てこない。
「やっぱり居るぜ、あそこ、人影がある。」
「直接、行こう。」
僕らは庭を横切り、人影が見える部屋の窓をノックした。
「サビージョさん!」
すると、影が動き、窓が開いた。
「なんだよ。うるせーな。ずっと呼び鈴鳴らしやがって。」
出てきたのは、寝間着姿で顔をピエロのようにメイクした男だった。その顔に驚きつつも
「居るなら、出…」
オリバーが言うのを遮り、
「すみません、サビージョさん。仲間になって下さい。」
と僕は言った。
「おう、いいよ。その代わり報酬は全額、俺が貰う。」
「やったぁ。」
僕は喜んだ。
「いや、全額って。俺らの報酬は?ボランティアで戦えってこと?命がけなのに。」
オリバーが不服そうに言った。
「最強の魔法使いとパーティー組める、なんて機会そうそうないぜ?試しにやってみようよ、な、な?」
僕はオリバーを説得しようとした。
「君ズレてるね。普通はそっちの奴が言うように、全額は無理って言う。値引き交渉してきても拒否で断われたのだが。」
「ズレてるのはお前だろ!」
オリバーがとうとう怒り出した。
「おや、不服そうだね。交渉決裂で良いかい?」
サビージョが落ち着いた声で答えた。
「オリバー、冷静になれって。ここで彼を仲間にすれば、ヒーローズの評判はうなぎ登り。仲間を集め易くなる。報酬に困ったら、彼を切れば、な?」
「ふ~ん、あっしは客寄せパンダか、お前さんの駒か。そんな扱いじゃ交渉決裂だ。さっさと消えろ。そして二度と来るな。」
「いや、今のはオリバーを説得…」
気がつくと、ノックダウンデーモンギルド前に僕達は居た。
「あれ?」
「魔法か!」
「会話しながらの短時間で移動魔法。すげーな。」
「そんな所に関心するなよ。やっぱり変人だったな。」
「よし、もう一度行こう。」
「止めとけって。また魔法で飛ばされるな。いや、あの言い方は殺されるかもな。2対1でも力の差は歴然だ。」
「そうか。」
僕はしぶしぶ諦めた。
「もっと、経験値を積んで、強くなろう。サビージョが仲間に入れてくれって言う位に。」
「そうだな。」
もう夜になり、ギルドも閉まっていたので、僕たちはそれぞれ家に帰った。