くるみちゃん、初めてのメダルゲーム。
「ほんとになんなの? 人を馬鹿にするにも程があるよっ!」
くるみは、一生懸命に自分を落ち着かせ様としているのが垣間見えるが、時折占い少女育美に対しての怒りを口にしていた。
「春男っ! メダルゲーム!」
「わ、わかった」
占い少女に惨敗した後、俺達はアミューズメントコーナー――つまり俗に言う大型のゲーセンと言う所にやって来た。
クレーンゲームで、可愛い人形か何かをゲットすれば、少しは落ち着くだろう……と言う俺の配慮を一蹴し、くるみはメダルゲームを要求していた。
「なるほど。現金を入れてメダルを買うんだな。いくら買えばいいんだ?」
「私もわかんないよ。とりあえず1万円でいいんじゃない?」
「え? そんなにか?」
「さっきのふざけた占いは春男が出してくれたから、これは私が出すよ」
「いや、中学生がメダルゲームに1万円はまずいだろ?」
「いいの! 警視総監から謝礼、私ももらってるから。今日はここでゆっくり遊ぶんだから!」
「わかったよ」
日本では、中学生のくるみが事件に関わる際は、『給与』ではなく『謝礼』と言う形で支給されていると経理に聞いた事がある。
普段メダルゲームなんかやらない俺は、貸メダルの相場はわからないが、とりあえずくるみから受け取った1万円を機械に入れ、全てをメダルにするパネルをタッチした。
バケツが機械から出て来て、ジャラジャラと激しい音を撒き散らしメダルが入っていく。
「は?! 2000枚だと?! と言う事は1000円で200枚か?! 多すぎだろ?」
「早く! 春男持って来て!」
「お、おう」
おっさんがバケツに大量のメダルを抱えている――周囲の驚いた目線を気にしながらくるみの所に行くと……。
「これやりたい。馬がいるよ」
「競馬ゲームか……」
くるみが数ある中から厳選した筐体。
それは、8頭の人形の馬が人工芝のコースを走る競馬のゲーム。大型モニターも設置されて、走る馬の名前、倍率が表示されている。
よくわからんがとりあえず着席した。
『次のレース、締め切り3分前です』
「え? 早くメダル入れなきゃ春男!」
「お、おう!」
とりあえずメダル投入口に流し込んだ。表示は300枚。
「なに? なに? どうすんのこれ?」
「と、とりあえず1番から8番の中で1着になる馬を選ぼう」
若い頃、競馬場へは一回足を運んだ事がある。今の馬券システムはよくわからないので、単勝と言って1着になる馬を当てる事に挑戦する事を提案した。
「くるみ。馬ごとに倍率が表示されている。1着になれば、賭けたメダルがその倍率をかけて返ってくる。ハズレたらゼロだ」
俺とくるみはモニターに表示されている出馬表を見た。
①ハルノアシオト 2倍
②ウラナイショウジョ 5倍
③ハヤクハシルゾー 7倍
④クルミプリンセス 150倍
⑤ゴリラ 70倍
⑥イチバンボシ 15倍
⑦オトナノイロケ 6倍
⑧エクスタシーガール 35倍
「俺はとりあえず①番のハルノアシオトに1枚賭けるか……」
「え? 1枚? なに春男? 当たっても2枚だよ? 男なんだから⑤番のゴリラにドーンといくべきじゃない?」
「いや、とりあえず1枚に……」
「あ、プリンセスクルミだって!私、この馬にさっき入れた分、全部!」
「ぜ、全部だと?!」
「早く! 締め切っちゃうよ!」
3分後――
『ただいまのレースは、1着②番――』
「……ウラナイショウジョか」
「……なんなの? なんで、よりによってあのバカ女みたいな名前の馬が1着なの?」
くるみは怒っているが、勝った馬は2番人気だ。妥当っちゃ妥当だ。
競馬なんてもんは、そうそう大穴が来て大儲け! なんて事は稀だ。
「ぐるみさ、おずさん」
※くるみさん、おじさん
「え?」
隣の席など気にしてなかった。
「育美さんか? なんで、こったどごろにいるんだ?」
いかんいかん。俺も津軽弁が出てしまった。
「すごど終わったはんで」
※仕事終わったから
「そうですたが。おづがぃさま」
※そうだったのか。お疲れ様。
「…………」
隣の席には先程の育美がいた。
すかも、がっぱのメダル獲得すてら。
失礼――しかもたくさんのメダルを獲得している。
「わ、当だったよ!」
「……春男、次のレースに全部賭けるから残りの1700枚全部入れて」
「ぐるみさ、ぜんぶへるなんて、いやらすい……」
※くるみさん、全部入れるなんていやらしい……
「うるさいっ! インチキ占い師は黙れ!」
「まあまあ、二人ども。こごは仲良くしだらどうだ?」
「春男は中途半端ななまり使うな!」
くるみがもし、友達がいなかったら、この二人は良い友達になれるんじゃないか? そんな気がした。
俺の余計なお世話かも知れんが。