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くるみVS占い少女 第二ラウンド

 くるみは深呼吸をしながら、フードコートでコーラを飲んでいる。


 「お、落ち着いたか? くるみ?」


 「あ、うん。ごめんね春男。ちょっとイラッとしただけだから。もう大丈夫」


 ちょっとじゃないぞ?

 激怒してたが?

 なぜか部屋に飾ってある俺との写真に関しては特大の地雷の様だから黙っておいた。


 「と、ところで何で文学フリマに行った事がわかったんだろうか?」


 「あの女は、さり気なく私のトートバックの中を見たんだよ」


 「え?」


 「pusugaさんの新刊、『心療内科の友美さん達の夜更かし読書会 桃組』の表紙画像はXで告知してるから、見て知ってた可能性があるよ。もしかしたら、pusugaさんは神作家だからファンかも知れないよ?」


 「…………」


 「あと写真なんだけど、よく考えたら、女の子の部屋には大抵写真飾ってあるから、春男が家族だと思って適当に言った可能性があるよ」


 「なるほど」


 「それに赤い自転車だけど、ホットリーディングを使った可能性があるよ」


 「ホットリーディング?」


 「うん。あらかじめ事前調査して、わかっている事をさもその場で霊視した様に見せつける事だよ。テレビにも出てる有名な霊能者は、調査チームを持っていた――なんて話もあるくらいだからね」


 「なるほど。だが、俺達があの占い少女の所に行ったのは全くの偶然だぞ?」


 「そだね。春男が裏であの女と繋がってるなら別だけどね」


 「それは100パーセントない!」


 「わかってるよ。だから、なんであの女が私を調べて、私達が来る事を知ってたのか? そこがポイントだね」


 「…………」


 俺がくるみを誘ったのは全くの偶然だ。だから、頭の中を覗かない限り今日ここに来る事はわかるはずがない。


 くるみが言う、ホットリーディング等の理屈はわかる。しかし、俺は霊視的な得体の知れない恐怖を感じていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 「さあ、もっかい行くよ」


 「お、おう」


 俺達は再びブース内を訪れた。


 占い師育美は、再びやって来た俺達に驚く様子は微塵もなかった。


 「おがえぃじゃ」


 「…………」


 「おかえりなさい。だ」


 「……い、育美。今度は手相を見てよ」


 「かまわねじゃ」


 「とりあえず、来年の私を占ってよ」


 育美は、くるみが差し出した手の平を両手で持ち、しげしげと見ている。


 その後、顔を赤面させ俯きながら、くるみの手の平を人差し指でなぞりながら――


 「ぐるみさ。こったらに広げで。いやらすい……」


 「は? 手の平だけど? なに? 突然?」


 「汗がいでらおん……」


 「春男、通訳」


 「あ、そうだな――手の平が汗ばんでるよと言ってる」


 「手の平だからね。汗ばむ事だってあるよ」


 「生命線なぞってける」


 「生命線をなぞって――」


 「通訳はいらない!」


 「…………」


 駄目だ。

 くるみがすでに着火してるぞ?


 「それども、舐めでけるべが?」


 「は? 舐める? 手の平だよ? ふざけないで、手相占いしてよ」


 「どごがあずますい?」


 「…………通訳」


 「どこが気持ち――」


 「あ〜はいはい。それ以上はセクハラになるよ。訴えるよ」


 くるみさん? 俺は通訳してるだけなんだが?


 「ぐるみさ、めぐせがりや」


 「同時通訳! 早く!」


 「く、くるみは恥ずかしがりや……」


 「…………」


 駄目だ。想定外の攻撃で返り討ちだ。

 くるみさん。撤退すた方がいんでねが? 

 

 ギリギリと歯ぎしりをしながら、育美を睨みつけているくるみ。


 「あのさ、育美。あなたの目的はなに? なんで私を調べたの?」


 「調べでねじゃ。ただの占いさ」


 「とぼけないでよ!」


 「とぼげでねじゃ?」


 くるみの指示がないから、春男が通訳しよう! とぼけてないよ? だ。


 「赤い自転車とか、さも見えた様に言ってたけど、誰かに頼んで調べたに決まってるよ! ホットリーディングを使ったんだよ!」


 「あがぇずでんしゃ? 当だっちゃーが?」


 「…………」


 赤い自転車? 当たってたの?

 驚いている育美。

 その表情に嘘偽りは無いように見えた。


 「帰る!」


 「お代はいねよ。どうも」


 「春男! 財布! 早く!」


 くるみさん?

 お代はいらないよと言ってますが?


 俺のポケットに手を突っ込み、またしても財布を強奪。そんな乱暴に手を突っ込んだら、変な所に当たっちゃうぞ? や・め・て


 そして、2万円をテーブルに叩き付けたくるみ。


 また2万……。

 確か15分で1万5千円じゃなかったか?

 10分も経ってないが?


 「育美!これで勝ったと思わないでよ!」


 雑魚丸出しの、くるみらしからぬ捨て台詞を吐き、俺達はブースを後にした。


 1回目はまだしも、2回目は占いすらしてないが? しかも手の平を見せただけだぞ?


 2回併せて4万円を溶かした。


 「あ〜くだらない。春男が占いなんかしようって言ったからだよ! 気分を害したよ。謝ってよ」


 「す、すまん……」


 くるみは、占いを提案した俺に責任を全振り。

 俺は30分で4万円と言う物理的ダメージ。くるみは精神的怒りのダメージ。


 完膚なきまでの惨敗だ。


 くるみに中学生らしい幸せを体験して欲しい……そんな淡い願いは無惨にも占い少女によって、木っ端微塵に破壊されたのだった。

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