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普通の中学生の幸せ

 ※今回、私の若い頃の苦い経験を赤裸々に明かしています。

 ハンカチ……いや、雑巾で良いくらいです。ご用意下さい。



 土曜日夜、自宅。

 独身の俺の家には、自分以外当然誰もいない。


 窓から外を眺めてみる。

 くるみの事を考えていた。

 

 よくよく考えて見れば、あいつは今の生活に満足してるのだろうか?

 楽しいのだろうか?

 まだ中学生なのに、事件があれば駆り出され、その底なしの知識を持って予想以上の活躍をしている。


 好きな物はコーラ、ウナギ、カプセルホテル。

 休みの日はどうしてるのだろうか?

 友達と遊んでいるのだろうか?

 だが、くるみからは家族の話、友達の話は聞いた事がない。それどころか遊園地、買い物、動物園――遊んだと言う話は聞いた事がない。余暇活動としての話は、たまに文学フリマに行き、pusugaとか言う得体の知れない推し作家の作品を買ってると言う話しだけだ。


 くるみには普通の中学生の生活をして欲しい気持ちもある。

 

 俺は謎の父性本能に目覚めた。


 明日は日曜日だ。

 買い物にでも連れてってやるか……。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日日曜日。14時。


 「春男お待たせ。午前中文学フリマに行って来た」


 「そうか。推し作家はいたのか?」


 「pusugaさんいなかった……DMが来て、洗濯物の下着にハチがいたんだけど、そのまま履いてしまって股間刺されたから欠席なんだって……かわいそうで泣いちゃったよ。でも新刊は委託販売してたから買えたよ」


 「…………」


 昨日夜、衝動的にくるみに連絡した。

 女の子はショッピングモールでの買い物が好きだと言う、徳川春男予想がピタリと的中し、くるみを連れ出す事に成功していた。


 「ほんとにいいの?」


 「ああ、問題ない。先日の拒食症の女の子の件で、警視総監に10万もらったからな。なんでも買っていいぞ」


 「え? あの時、春男なにもしてなくない?」


 「まあ、細かい事はいいだろ」


 俺はおもむろにショッピングモールのフロアマップを全開に広げた。


 「それよりどこに行く?」


 「えっとね~お腹空いたから、カレー食べたい」


 良かった。楽しそうだ。

 少しは気分転換になればいいが。


 「わかった。カレーだな?」


 「55カレーがいい」


 「了解」


 まずはフードコートで食事。

 その道中に発見した『ガチで当たるよ。占いだから売らないよ? あと、手相も出来るよ!』と言うふざけた名前の占いブース。

 女の子は占い好きだろう。

 交渉術に秀でたくるみが、プロの占い師と対峙したらどうなるのだろうか?

 そんな子供じみた好奇心が俺をくすぐった。


 カレーを食べながら話をしてみた。


 「くるみ。さっき占いブースがあったろ?」


 「うん」


 「一度占ってもらったらどうだ?」


 「そんなの興味ないよ」


 「実際占ってもらった事はあるか?」


 「ないよ」


 「じゃあ話のネタとして、一度占ってもらったらどうだ?」


 「え〜やだよ」


 「占い師の方は色々な会話術を持っている。ネゴシエーターとして、役に立つ技術があるかも知れないぞ。色々な経験をする事はくるみにとってマイナスではないと思うが?」


 「……わかった」


 俺はプラス要素を畳み掛けると言う、徳川春男式交渉術奥義を繰り出し、説得に成功した。


 「どうせ春男は、女の子は占い好きだから私が喜ぶだろう……みたいに考えてると思うけど、霊能者みたいな人だったらほんとに怒るからね」


 「あ、ああ。占いと書いてあったから大丈夫だろう……」


 そしてカレーを食べた後、占いブースへ。


 「着いたぞ……あ?! なんだと? 15分10000円?! 手相だと15分15000円だと?!」


 「高いよ。もったいないよ。やっぱやめようよ」


 「いや、ここまで来たら俺にも意地がある。サクッと明日の運勢でも占ってもらって帰ろう」


 驚愕の鑑定料金に武者震いしながら、パーテーションで仕切られただけの狭いブースに入る。

 小さなテーブルと椅子が一つ。

 テーブル越しに対峙しているのは明らかに中学生くらい。くるみと齢が近い。


 「お嬢さんは占い師かい?」


 コクリと頷く占い師。


 『的中』と書いてある白い野球帽。ラルフローレンのピンクのボタンダウンシャツ。昔流行った紺ブレ。下半身はブラウンの巻きスカートの様だ。

 占い師とは似ても似つかない、アンバランスな服装。

 そして首からぶら下げてある『大地19美』と言う、わけがわからない名札。


 そしてくるみを見た途端――

  

 「な、たげめごぇわね!」


 「はい?」


 いきなりなに言ってんの? と、怒りにも似た困惑のくるみに対して、青森県五所川原出身の俺、徳川春男が耳打ちする。


 「くるみ、津軽弁だ。しかもかなりのなまりだ。今のは、あなた可愛いねと言ったんだぞ」


 「そ、そうなんだね……わかった」


 「そごさ座って」


 「あ、うん……」


 どうした? 占い少女のなまりにくるみが明らかに動揺してるぞ?!

 

 「かにな。わ、昨日青森がら引っ越すて来だばがりなの」

 

 「……昨日引っ越しはわかったけど、カニな? 春男。通訳してよ」


 「ごめんなさい、堪忍なと言う意味だ」


 「……まあいいや。占い師さん、とりあえず、明日の運勢を占ってよ」


 「わの名前さ、だいちいぐみ。ちゅうがぐさんねん。名前の由来は、美すいリンゴみだいにおがる様にだよ」


 「別に自己紹介してなんて言ってないけど……まあいいや。私は青森くるみ……くるみでいいよ」


 「わ、育美ど呼んで」


 占い師はくるみと同級生だった。

 大丈夫か? 金を払ってる以上遊びじゃないぞ? ちゃんと占いしなかったら春男のカミナリ落としちゃうぞ?


 「わかった。じゃあ育美。早速明日の運勢を占ってよ」


 「この紙さ名前書いで。綺麗な字で書いでね」


 「…………」


 くるみがイラッとしている……。

 おいおい? もう5分経ったぞ?






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