呪いをかけられた大場加代さん
秋田県に住む、大場加代さんは最近恋人が出来、実家の魚屋で手伝いをしながら幸せな毎日を送っていた。
しかし加代さんはある日、仕事中激しい胸の痛みで倒れてしまった。
その後、彼女は胸だけではなく全身の体調不良による寝たきりになり、起き上がる事さえも出来なくなってしまった。しかも、医者がいくら詳しく診察しても、その原因が全くわからなかった。
そして数日後、事件は始まった。
一人の男が警察署に現れた。
その男は加代さんの恋人である、安藤夏男さんであった。
そして、驚くべき事に彼はこう訴えた。
「加代さんの身体の変調は、ある人物にわら人形の呪いをかけられた為なので、すぐにその呪いをかけた人物を逮捕して欲しい」
『呪い』
呪いとは、特定の人物に深い怨みを抱いた者が、その怨念をこめて、古来より伝わる魔術的儀式を行い、離れた所にいる相手に苦しみを与え、時には死にまで至らしめるという行為。
警察に訴えた安藤夏男さんは、実は数年前から、同じ市内に住む原真紀さんと交際を重ねていた。
だが、二年を過ぎた頃、安藤さんには新たに好きな女性が出来た。それが倒れた大場加代さんなのである。
そして、加代さんに愛情が移ってしまった安藤さんはある日、原真紀さんに別れ話を切り出した。
「他に好きな女性が出来たんだ。別れて欲しい……」
それは真紀さんにとって、信じられない言葉であった。
彼女は安藤さんが将来、自分と結婚してくれると信じて、これまで誠心誠意、献身的に尽くして来た想いがあった。その想いは、突然別れ話を切り出されて、孤独に突き落とされた……。
そして、安藤さんが好きになった女性が大場加代さんだと知った彼女は――
【大場加代を呪い殺してやる】
やり場のない怒りを加代さんに向けたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「徳川君。秋田県警が原真紀容疑者を逮捕したそうだ」
「え?! まさか?! なんの容疑でしょうか?」
俺は警視総監室にて驚愕を露わにしていた。
「脅迫容疑での逮捕に踏み切ったそうなんだ」
「え? まさか……わら人形を木に打ち付けた事が脅迫として立証出来るのですか?」
秋田県で被害届が出された上記の事件、秋田県警内では連日深夜に渡り協議されたとは聞いていた。
だが、俺の見解では逮捕案件になるとは予想外の結果だった。
「徳川君。既に一部SNS上では噂になっており、マスコミも嗅ぎつけていると言う情報もある。これが、不起訴になった場合は秋田県警内での責任問題に発展する可能性があり、本庁としてもこれ以上秋田県警に委ねる訳にはいかないと思う」
「はい……」
「そこで、私の全権大使として、明日から秋田へ飛んで欲しい」
「わ、わかりました……」
「もし、秋田県警が判断に迷い、そして本庁として判断をしなければならない事項が発生した際は私の代わりに徳川君、君が判断・指示をしてくれたまえ」
「かしこまりました。警視総監、一つお願いしたい事があります――」
なんと言う事だ。
科学捜査と証拠を重んじる日本の警察が、古来より伝わるわら人形の儀式――つまり、呪いに対して逮捕に踏み切ったのだ。
俺は早速明日からの出張に備え退勤、そして途中ATMで十五万円を引き出し、その内の五万円をpaypayアプリにチャージした。