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19/19

19 事実

「……シャーロット。後ろに下がって」


 ハビエル様の落ち着いた声が聞こえたと思ったら、私の視界には彼の大きな黒い背中があった。


 指示通りに何歩か後ろへと下がり、明らかに私を狙っていて追い掛けようとした男の一人は、ハビエル様の一太刀で簡単に行く手を阻まれた。


 わ……凄い。


 私が何年か剣術を習得しようとしたからわかることだけれど、ハビエル様は剣に関しては天才と言って過言ではなかった。


 遊び半分の訓練ではなくて、こうして実戦で近くで見ると、それが良く理解出来る。


 努力だけでは辿り付けないほどに、非常に高い位置に彼は居た。


 複数人を相手取りながらも、焦りは見えずにゆったりした構え。鮮やかな剣筋に無駄のない動き、私が剣術を知っているからこそ、それが出来ることがどれだけ凄いことかよくわかるのだ。


 双方真剣での戦いなのだから、緊張感があって然るべきなのに、まったく気にしない様子が出来るということは、絶対的な自信を持っているということだ。


 ハビエル様は血を流さずに峰打ちをして、彼らを一人一人、地に伏させていった。


 か・か・かっ……格好良い~~~~~!!!!!


 ハビエル・クラレット様。王立騎士団の団長だった……! そうだった。


 騎士は騎士でも、彼らの中でも最高位の役職にあるということで、知略だけでなく武勇にもとても優れているということだ。


 彼の秘書官ロイクさんだって、私に以前言っていた。クラレット公爵家の三男であるからと拝命出来るような、そういう生易しい役職ではないと。


 そして、ハビエル様は戦うことを、とても楽しんでいるようだった。


 口元には笑みも浮かべるほどに緊張などは感じられず自然体のままだけれど、対する敵を見事に打ち倒していった。


 この人には……決して敵わない。彼の戦う様子を見て、私は直感をした。


 異性だからとか、体格差があるからとか、そういう問題でもなかった。これは、彼が生まれつきに持つ天賦の才能と言えるもので、それを持たぬ者にはどうしようもない境地なのだ。


 悔しいという気持ちは生まれない。ただただ、清々しいくらいに崇拝の念を感じる。


 はあ……素敵。ハビエル様。本当に、格好良い。


 全員を地に伏させて衛兵に完全に捕縛させるまで、決して油断しないところも、母が私に口を酸っぱくして言っていた通りだった。


「……シャーロット。大丈夫だったか?」


 ハビエル様が安全を確保して私へと振り向くと、彼の元へと駆け寄った。


「あのっ……こうして戦う姿を初めて拝見しましたけど、本当に格好良くて……素敵でした。ハビエル様」


 その時に、ハビエル様は穏やかに微笑んだだけだけれども、私本人が彼の前でちゃんと話すことが出来たと気が付いた。


 あ。こうして興奮して話すと、余計なことを考えないかもしれない……けど、常時興奮するなんて無理だし。


 口を片手で押さえていると、ハビエル様は私の頭を撫でた。


「ほら。シャーロット。落ち込まないで。少しずつ俺とも話せるようになっているよ。別に焦ることはない。時間はいくらでもあるのだし」


「……はい」


 私の顔を覗き込んで安心させるように背中を叩いたハビエル様のお顔は、本当に凜々しくて格好良い。


 だから、どうしても取られたくないし、彼にはっきり気持ちを確かめられなかったマチルダ様の気持ちも……私も今では、理解が出来たりするのだった。



◇◆◇



 私を襲ったくせ者たちはマチルダ様ではない、ハビエル様の他の信奉者が放ったようだった。


 すぐに捕らえられて自白していたけれど、そういえば……マチルダ様が徹底的に囲っていたのなら、その鉄壁の囲いから出てしまえば、私のライバルはうようよ湧いて出るのかもしれない……。


 けれど、私は命を狙われてでもハビエル様と結婚したいと思ったので、ドレスのスカートに忍ばせられる剣を購入しようと思っただけだった。


 この短期間に、私も強くなったのかもしれない。襲われたら、蹴散らせば良いのだわ。


 私はハビエル様がまだ仕事から帰宅しないその夜に、彼の邸にある広い庭園で、大きな敷物を敷いて柔らかなクッションを置くと、何個か蝋燭を立てた。


 見上げると満天の星に、丸い月が綺麗。


 私はごろんと寝転んで、空を見上げていた……あの時から、短期間しか経っていないのに、色々なことがあったなと、しみじみと思い返していた。


「……シャーロット。どうしたんだ」


 ハビエル様は上着だけを脱いだ白シャツ姿で、私が色々と庭園に用意した場所までやって来た。


『ここでデートしましょう。ハビエル様』


 寝転んだままの私が石板を見せると、彼は微笑んで隣に座った。


「ああ……良い夜だな。今日は、満月だったか」


 そうだ。私たちが出会った時には、半分だった月が、今では丸く満ちていた……まるで、私たちの関係みたいに。


「こうして夜に外で寝転ぶなんて、これまでに考えたこともなかったな……だが、蝋燭の光も綺麗だし、雰囲気も良い。準備は大変だっただろうが、嬉しいよ。ありがとう。シャーロット」


 私が黙ったまま頷くと、彼は隣に寝転んで空を見上げた。


「……結婚式の前に旅行もしたいな。そろそろ社交シーズンも終わるだろうから、クラレット家の持つ別荘にでも行こうか。湖も花畑も綺麗な場所があるから、シャーロットに見せたいな……」


 私に見せてくれるという名目で、自分が見たいのかなと疑ってしまう。それほどに、ハビエル様はデート中とても楽しそうなのだ。


 ……けれど、この前に彼の戦う姿を見た時に私は思った。


 ハビエル様は戦うことを、とても楽しんでいた。そして、もしかしたらマチルダ様の好意に気が付かない道化を演じることだって、楽しんでいたのかもしれなかった。


 あれを単なる演技だと断じるには、あまりにも自然過ぎて……彼自身が楽しんでいるのなら、まだわかるような気もする。


 そして、私とのデートも本当に楽しんでいてくれるのだろうなと思う。だから、私も緊張し過ぎることなく楽しいし彼と一緒に居たいと思う。


 本当に素敵な人だわ……。


「しかし、夜に星空を見上げるなんて……やっぱり、シャーロットは可愛いね。俺は君と結婚出来て幸せだな……」


 そこで、私はあれ? と思ってしまった。私は、ハビエル様がこうするデートを好きだろうからとこれを準備したのに……。


 私は手元にあった石板を持ち上げて、カツカツと書いて彼に見せた。


『どうして、私と出会ったあの夜に、星を見ようと思ったんですか?』


「え……シャーロットは、今夜は帰りたくないと言っただろう? だから、星でも見て朝を待って帰ろうと思った」


 たっ……確かに、あの日、私たち朝帰りしましたわね……! しょっ……衝撃の事実!!!


 乙女チックな趣味なのねと私はあの時思っていたけれど、ハビエル様は私の『今夜は帰りたくない』を余すところなく、叶えてくれていただけだったんだ~!!


Fin



最後まで読んでくださってありがとうございます。

もし良かったら最後に評価を頂けましたら、幸いです。


それでは、また別の作品でもお会いできたら嬉しいです。


待鳥園子


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