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14 運命

「……あ。おかえり。シャーロット」


 私がハビエル様が住む邸に到着し、医者の診断を受けてから案内された部屋に居たのは、我が邸のように寛いでいた私の従兄弟エリアスだった。


 一応、命の危険あった従姉妹の出迎えの態度にしては、あまりにも軽くない? 良いけど……身体には何の問題もありません! とさっき言われたばっかりだし。


「エリアス! その、少し話したいんだけど……」


 立ったままで私はハビエル様から貰った石板へ『ハビエル様はわかっていて、知らない振りをしていた』と書き込んだ。


 エリアスは石板の内容を見てから、右手に持っていたカップを落ち着いた仕草で机に置いた。


 そして、手招きをして私を自分の前の席へ座るように促した。


「普通に考えれば、そうだろうね。あれで気がつかない方が、明らかにおかしいから。鈍感な振りをして、断れない縁談を回避しようとしていたのか……あれがすべて演技だとしたら、それはそれはハビエルは恐ろしい男だな」


 カツカツと音をさせて『私もそう思う』と石板に書けば、エリアスは変な顔をした。


 だって、私も長く一緒に居るだろう部下ロイクさんの言葉を聞かなければ、ハビエル様ったら鈍感過ぎる……! と、思ったままでいたもの。


「それに、シャーロット。何だよ。筆談なんかをはじめて。従兄弟である僕のことも異性だってことに、遅ればせながら気がついたのか?」


 あ。そうだった! その辺の説明が、すっぽり抜けていたかも……!


 エリアスから見たら自分とは問題なく話せる癖に、どうして今文字で会話しているんだって話よね。


『王家の影が私の事を、見張っているらしいの』


「……シャーロットのことを? おいおい。僕の知らないうちに、この国の国家転覆でも企んだのか? 本当に目が離せない従姉妹だな」


 長い足を組み替えて、エリアスは揶揄うように言った。


 もう。そんなわけ……ないでしょ!


『違うわよ! マチルダ様がハビエル様のことを、常に見張らせているらしいの』


「ふーん……では、それはあまり、意味はないと思うよ。影に僕らを見張る余裕はない」


 お茶のカップを持ち直したエリアスは、涼しい顔をして肩を竦めた。


 ……どうしてだろう? 近くに私たちの会話を盗み聞く、隠密集団が居るかもしれないって、私が言っているのに。


 けれど、このエリアスが言葉の意味が、わかっていない訳がないと思う。


「……どうして、そう思うの?」


 私が恐る恐る声を出して聞けば、エリアスは小さく息をついて言った。


「優秀な諜報員しかなれない『王家の影』の数は、限られている。マチルダ様は自分の警護用の『影』を自分の我儘で使ってハビエルに張り付かせているのだろうが、彼を四六時中見張るとなれば、シャーロットなんか気にしているわけはないと思うね。特に自分が怪しまれるような事をした後だから、今は彼本人の方へとピッタリと張り付いていることだろう」


「……随分と、詳しいのね? エリアス」


 何故かエリアスは『王家の影』について、やけに詳しい情報を持っているようだ。


「まあね……王家直属の隠密集団であろうが、彼らとて雇われている限り、給金が必要だし職務に必要な予算も税金から用意される。ある特定の文官は、それは職務上知っている事実だろうね」


 なんだか、随分と周りくどい言い方をしたけれど、恐らくはエリアスは『王家の影』についての予算編成を見る事が出来る……だから、マチルダ様についている『影』の人数もある程度把握しているんだ。


「えっ……エリアスって、凄いんだね」


 従兄弟エリアスがどんな仕事を城でしているか、まったく知らない私は驚くしかなかった。


 それに、マチルダ様……税金で雇っている諜報員に、自分の恋路を手伝わせているんだ……! という、衝撃もありつつ。


「おいおい。それに、今初めて気がつきましたみたいに言うなよ……それで? シャーロットは、結局のところどうしたいんだよ。ハビエルはマチルダ様の恋心を知っていて、知らない振りをしていた。つまり、道化の振りをして周囲の目を欺いていたという事だ。最初会った時の彼の印象とは、全く違っていたんだろう?」


「その……色々あって、私の口下手なのも、可愛いって言ってくれて……」


 そうなのだ。エリアスと今日の午前に話していた時とは、また、状況が大きく変わってきてしまっていた。


 私は……ハビエル様のことを、明確に好きだと思ってしまった。


 そんな事実を思うだけで顔に熱が集まり、そんな私が言いたいことを様子を見ただけで色々と察したのか、エリアスは大きくため息をついた。


「はああ……なるほど。僕が仕事を片付けてここに来るまでに、ハビエルと両思いになったということか。あまりに早業過ぎて理解が追いつけないけど、二人はとてもお似合いだと思うよ。僕は最初、彼に会った時からそれは思っていた」


「え! ……そうなの? どっ……どういうところが?」


 あのハビエル様とお似合いだと思ったと言われて悪い気はせず、思わずにやついた私はエリアスの方へと身を乗り出した。


「まずは、お互いに好意を持っている事が、わかりやすかったね。口では嫌だどうしようと騒ぐシャーロットも、マチルダ様の危険は分かりつつ、あの容姿の良いハビエルと結婚したい気持ちは丸わかりだったし……男はやはり顔なんだなと、僕も思ってしまったね」


「……そ! そんなことは!」


 ないとは、言えない……だって、ハビエル様は少々の悪条件があっても諦めるには、あまりにも魅力的な男性すぎた。


 色々と動揺していた私だって、何度も思った……命の危険さえなければ、と。


「それに、ハビエルもシャーロットと必ず結婚したいという気迫が溢れていたね。今思えば、すぐにシャーロットの両親へと話を通して自らの邸へと連れ帰り、身の安全を確保したかったのだろうが、シャーロットが手紙を送るのが遅れて、あの時には焦れに焦れてアヴェルラーク伯爵邸までやって来たのだろう」


「そうよね。今なら、それも無理もない行動だったのかなと理解は出来るけれど……」


 けれど、ハビエル様の持つ事情がわからないままの状態だと、ただただ驚くしかない行動よね。


「ハビエルはこれまでずっと、断れない縁談を強行されるという危険を凌いでいたわけだし、彼はシャーロットと結婚するまでは、マチルダ様の好意について知らない振りを貫くだろうね」


「それは、そうだと思うわ。けれど、それだってマチルダ様が好意を明かして、自分との縁談を優先しなさいと言えば、それで終わってしまわない……? 大丈夫かしら」


 私はそのことが、不安になってしまった。伯爵令嬢と王族の姫君、どちらを優先せよと言われてしまうかは、火を見るより明らかだ。


「……マチルダ様はプライドが高く、ハビエルのことを好きだと言えまい。言えるならば、既に言っている。臣下の身分で縁談を断るわけにもいかないが、それはそれとして、誰かの好意を拒否することは個人の自由だからな。ハビエルから好きではないと告げられることを、彼女は極度に恐れているようだ」


「けれど、聞かないとわからないと思うわ。私だって結婚出来るなら私でなくても良かったかと、私のことを好きなのか、大事なことはハビエル様本人へ確認したもの」


 そこでエリアスは私を見て、ぽかんとした顔をしていた。


「……? 何? 当然でしょう? だって、これから私たち結婚するのだもの。そこを聞いておかないと、一生一緒に居るなんて嫌だわ」


 どうなのかと思った時に真意を確認しておけば、関係が先にいったとしても、それ以上は悩むことはない。


「いや、だから……まあ、僕もハビエルがシャーロットが好きな理由が、なんだかわかった気がするよ……最初は色々と言葉が足りなくて、誤解はあったんだろうが、二人は求め合う運命だったのかもしれないね。うん」


 足を組んだエリアスは宙に視線を向けて、遠い目をしていた。

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