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架空都市伝説  作者: 海花
第3の怪 忘れず湖の龍神様
9/9

そして、忘れもしない6月の雨の日

なんでだったかは忘れたけど半日で学校が終わった日だったのは覚えている。

その日待ちに待った大雨が2日連続で降ったから広場を見に行ったんだ。

もうその頃には忘れず湖の龍神様の話はみんな興味を無くしていたから

オレ1人で、学校帰りに家に帰る前に寄り道して。


鬱蒼とした道を通って開けた広場に出る。


そこで気付いたんだけどあるべき音がしないんだ。

雨の音も、葉っぱが擦れる音も、なにも。

全てが薄い膜をひとつ隔てたような、あるいはなにかに見つからないように必死に息を殺しているようなそんな感じの奇妙な緊張感のある静寂、って言えば伝わるかな。


そんな俺の耳に鈴とか金属のすだれみたいな楽器(ウィンドチャイムっていうらしい)みたいな音が鮮明に聞こえてくるんだよ。


音の出処を探して目線を向けると広場に降る雨は霧のように細かく降りしきっていて広場の向こうを見ることが出来ない有様なんだけど、割と足元の方まで水浸しになってて足先から水が染みて靴の中がぐちょぐちょのちょっと気持ち悪い感じになっていた。

でも、オレはそこから動こうと思わなかったんだ。

性格には動けなかった、が正しいかな。


霧雨が初めは薄い紫に、やがてピンクや金と言った感じでオーロラみたいに輝き始めたからだ。

その景色をじっと見てると少しづつ霧雨のオーロラの向こうに巨大な生き物が蠢いているのが見えた。

よく見ようと目を凝らしていると薄いピンクの鱗のようなものが見えた。


オレはあれが龍か!とテンションが上がってもっと良く見える所に移動しようとしたんだ。

その時にちょうど分厚い雲の切れ間から薄日が差して広場を照らす。

そこには雨水で作られた汚い泥水の巨大な水溜まりなどはなく、青緑に近いようなバスクリンでも入れたような鮮やかな蒼い湖の上にいくつもの睡蓮が花を咲かせて波紋のひとつも無い絵画をそのまま目の前に広げたような息を飲むような光景が広がっていてその水面を揺らしてはいけない気がしてオレはすんでのところで踏みとどまった。

大人になった今ならあれが極楽浄土ってやつなんだろうな、って思うんだけど

当時のオレはただただ目の前の綺麗な風景に目を奪われて居たんだ。


そいつは差し込んだ光に照らされて現実離れした湖のすぐ上、空中を身をよじるようにしてアニメやゲームで見たままの姿で泳いでいた。

湖の上を8の字でも描くようにぐるぐる回っていたそいつとオレの目が合った。

艶やかな桃色の鱗に黒い角、紫の鬣にオレなんて豆腐でも切るみたいに気軽に引き裂けそうな立派な爪。

何より吸い込まれるような黄金の瞳がじっと品定めしているようにこちらを見下ろしている。

声を出す事も許されていないような息をすることも忘れてオレも龍神様を見つめ返す。

永遠のように感じたけど、多分時間にして数秒もなかったと思う。

突然龍神様は天を仰いで咆哮を上げた。

その時になってオレはあのウィンドチャイムの音は龍神様の鳴き声だったんだって気づいた。


そしてもう一度龍神様がこちらを見たと思ったら物凄い豪雨で一瞬オレが目をつぶって龍神様を視界から外してもう一度見たらさっきまでの光景は幻覚かなにかだったんじゃないか。と思うほどにただ茶色く濁った汚い水溜まりと化したただの水はけの悪い何もない広場が目の前に広がっていた。


嘘だろ。と思ってもう一度目を凝らしたり見る角度を変えてみたり1度森に戻ってから再び広場に出たりしてみたがあの夢のような風景にはその日、二度と見ることが出来なかった。

オレは龍神様が見たいばっかりに幻覚でも見たんだろうかと狐につままれたような気持ちで首を傾げながら来た道を引き返したんだ。

あそこには数分と居なかったはずだがすっかり真っ暗になってしまった道を家に帰るとおかんが膝から崩れ落ちて泣き出し、親父には殴られたあとに骨が軋むほど抱き締められた。

情緒不安定な両親に目を白黒させているとどうやらオレは丸1日以上行方不明になっていたらしい。

半日で終わったはずの学校を出て翌日の夜まで戻らなかったらそりゃあ殴られるよな。


その当時のオレからしたら、小学校から森までは1時間くらい、森から広場までは30分もかからないし広場にいたのは数分、長くても30分もない。

そんで森から家までも30分もかからない

小学校から家まで体感で2~3時間。

1時に学校が終わってるから遅くても4時くらいには家に着いてた感覚だったのだ。

少なくともあそこで夜を明かした覚えなんてない。

なのにどこに行ってたとか言われて殴られたもんだから割と納得はいかなかった。

でも翌日学校に行ったら同じょうに心配されたからやっぱりオレがあそこで1晩過ごしたのは間違いないらしい。ってことしか分からなかった。


あれは、なんだったんだろうな。

あの後何度か見に行っているんだけどあれ以来一度も龍神様を見る事が出来ないままに高校生になるのと同時くらいにあの土地を離れて、それからは一度も行っていない。

だからまだあの森自体があそこにあるのかも不明。

他にもこの龍神様を見た事があるやつがいたら教えて欲しい。

あれは、オレが見た幻覚だったんだろうか。

そしてあの森はまだあるのだろうか。


これは、オレが人生で唯一体験したふしぎな話。

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