③
「あー、楽しかったぁ!」
昨日とは打って変わったからりと晴れた空のような気持ちで帰宅した私は風呂から上がる頃に友人の言葉を思い出して日本酒をグラスに注ぎ、お代わり出来るようにその横に酒瓶も置いてテーブルに適当にお菓子を乗せておく。
「話聞いてくれてありがとね、良かったらそれ飲んでまた話に付き合ってよ」
おやすみ、と声をかけてリビングの電気をつけっぱなしで寝室の扉を閉めてベッドに潜り込んですぐに訪れた睡魔に欠伸をして目を閉じる。
晩酌、ひとりでして寂しくないのかな、と心のどこかで思いながら私は、眠りに落ちた。
寝入る間際にカラン、とガラスがぶつかるような音を聞いた気がした。
翌朝、久々に夢も見ずにぐっすり眠ってスッキリした気分で起きると電気のリビングは消え、空のグラスと酒瓶、少し減ったお菓子がテーブルに残っていた。
都市伝説、とか言われてたけど私の晩酌友達は随分と律儀な都市伝説なのだろう、食べたと思われるお菓子のゴミはきちんと分別して捨ててあった。
ふと、時計に目を向けるとまだ8時、休日の割には早く起きた方だな、と思い久々にしっかり家事をこなして、夜にはあの不思議な晩酌友達の都市伝説の相伴さんと美味しいものでも食べよう。と伸びをして洗濯でもしようと歩き出す。
視線を向けた先には清々しいほどの青空が広がっていて先日の鬱屈とした気持ちもどこかへ行ってしまったようだった。
まずは洗濯をして、それから掃除
要らないものはリサイクルショップに持って行って出来たお金で美味しい酒とおつまみを買って帰ろう。
今日の予定を考えて顔も良く思い出せないのに今日も来てくれると信じているあの都市伝説と今後もずっと飲み友達でいようと思っている自分に笑う。
「変な男よりいい友達が居る方が人生はきっと豊かなんだろうな」
私の独り言に応えるように何処からかグラスを打ち鳴らすような音が聞こえた。
これは、私と相伴さんの出会いの話。
私が死ぬまでその都市伝説を友と呼んだ、私の物語の序章。