②
「えぇっ、それって……!」
「フラれたからってやけ酒して変な夢見たみたいだわ、さすがに笑えるよね」
酔い潰れて昼過ぎに起きて友人達にフラれた事を報告すると直ぐにお茶に行こう!と誘ってきた学生時代からの友人に昨日の夜の話まで話すと驚いたように目を見開く。
流石にドン引きされるよね、と思い零した苦笑に友人は大きく首を振って否定する。
「違う違う、ユキ、知らないの?」
「何が?」
「最近まことしやかに囁かれている都市伝説だよ!
ユキは、都市伝説とか全然興味無さそうだから知らなくても無理ないけど……!」
友人が言うには1人で晩酌をしている人の所に突然現れては酒を出すと話を聞いてくれると言うよく分からない都市伝説らしい。
誰もその相伴さんの容姿の詳細を覚えて居らず、朝には空のグラスが置いてあるだけで誰かが居たような痕跡は何も無いが、相談した事は近いうちに解決するとかしないとか。
まぁ、私はただクソ男の愚痴を聞いてもらっただけだから解決もクソもない。
「それで、その都市伝説って座敷童子的なやつだとして、なんかした方がいいの?」
「また飲んで欲しいなって思うなら夜にお酒とおつまみを置いてテーブル周辺の灯りをつけっぱなしで寝るといいらしいよ」
一応スマホでその都市伝説について調べてくれたらしい友人がスマホ画面を見せながら解説してくれるら、
「へぇ、お酒置いとくとその後も飲んでくれるんだ、それは……晩酌相手に困らなくていいね」
「晩酌相手、って……怖いとかないの?」
へぇ。と内容を読んで呟いた言葉に友人が呆れてような顔を向ける。
昨日の夜も怖いとか特になかったし、なんなら肝臓を労るんだよ、とばかりに朝はテーブルの上にしじみのインスタント味噌汁が置いてあった。
私が買い置きしていたやつだけど、どこにしまったか忘れてたやつを見つけておいてくれた良い奴、と言う印象が強い。
「飲んだ翌朝にインスタントとは言え味噌汁置いてくれるのはありがたいよね」
うちの彼氏もそのへん見習ってくれないかなぁ、と頬杖をついてぼやく友人を軽く笑って流す。
お酒を置いておくと深夜に相談も愚痴も嫌な顔1つせずに聞いてくれるって家族か人生の半分を過ごした親友とか付き合いたての恋人くらいだと思っていたけど都市伝説の相伴さんがいるなら今後も是非仲良くしておきたいと思っている。
「まぁ都市伝説の方はユキが怖がってないならいいや。
そんな事よりあの浮気男どうするの?」
「……どう、ってどうもしないわよ
私の人生に今後関わらないでくれればそれで」
「えぇっ!?
だって散々可愛い庇護欲そそる女の子がいいとか言ってユキに無茶振りしてたのに結局かっこいいお姉さんがいいって浮気したんでしょ?
今までの努力とか好みに合わせて買った服とかメイク道具とかあるでしょ!?」
害もないしいいか。と都市伝説に飽きたらしい友人はより現実的な害虫の話を振るが私としては昨日愚痴を散々聞いて貰ってスッキリしてるので特にどうとも思っていなかった。
でもこの友人は目を見開いて努力を無駄にしてくれた報いを受けて欲しいとか思わないの??と聞いてくる。
全然考えてなかったし、かわいい系の好みじゃない上に似合わない服はフリマアプリで売り払ってお小遣いにしようかな、くらいにしか考えてなかった。
化粧品は使い方次第では普通に使えるような色味にしてたから特にダメージという程でも無い。
「ほぼノーダメージだもの、時間は無駄にしたなと思わなくは無いけどそれくらい……?」
「私のユキは男前が過ぎる……ユキが男だったら彼氏に欲しかった……」
あはは、と笑って見せれば友人は机に突っ伏して小さくうめく。
彼氏居るじゃん。と笑い飛ばしておいた。
彼氏よりイケメンだもんなぁ、と返ってきたがまぁ、いつもの事なので放っておく。
「あの浮気男、去勢でもされれば良いのにね」
「去勢かぁ、蹴っ飛ばしておけば良かったかも」
取り敢えずは元気そうでよかったよ、と言う友人の言葉にそうだね、と同意して小さく笑い合う。
可愛い友人に、文句を聞いてくれる晩酌相手、気の合う仲間のいる職場。
私の人生、男なんて必要ないくらい充実してるんだよなぁと思い返して別れて正解だったな、と大きく息を吸って吐く。
「心配して話聞いてくれてありがとうね
この後時間があればカラオケ、行かない?」
「いいね!ほかのイツメンにも声掛けてみよっか、誰か来れるかも」
「天才!さすが私の心の友!」