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【22】











 なぜか、ルスランとレーシャがデートをしていた、と言う話が学院内で広がっていた。別に言いふらしたわけではなく、目撃者がいたようだ、というのがやってきたレーシャの言葉だった。


「一応聞くが、エカテリーナか?」

「いいえ。むしろ、情報収集を手伝ってくださいました」


 おっとりと危機感なく言うレーシャに、アヴィリアンが生暖かい表情になる。


「お前、陥れられたのを忘れたのか」

「どちらかと言うと、陥れたのはこちらだと思うのですが……」


 エカテリーナがレーシャを害そうとしたのは事実だが、結果的に彼女をたばかって陥れたのはレーシャになる。なかなか微妙な関係だ。


「エカテリーナ様には、かつてほどの影響力はありません。あの方が今私たちの噂を広めたところで、ここまで急速に広まりませんよ」


 おっとりと思ったより冷静に現状を解析している言葉が返ってきた。


「男子生徒と言うよりは、女子生徒の間で広まった話のような気がします。必要であれば、拡散元を探しますけれど……」

「いや、別にいいだろう。……多少、私たちが生ぬるい視線を浴びるだけだ」

「……そうですね」


 気恥ずかしく、少し視線をそらしたルスランを見て、レーシャも頬を染めてもじもじした。婚約者であるのだから出かけることくらいあるし、堂々としていればいいのだ。……からかわれることに耐えられるかはともかく。


「あー……仲がいいのは結構だが、話を進めてもいいか?」


 どうぞ、とルスランとレーシャがアヴィリアンを促した。アヴィリアンに声をかけられて、一瞬で現実に戻ってきた二人である。


「とにかく、お前たちがこの噂の広がり方に害がないと思っているならそれでいい。情報元を特定したいなら止めないけどな」


 その場合は報告してくれ、とアヴィリアンは言うが、レーシャはそのつもりがないようで首を左右に振る。


「あまり目立ちたくないので」

「もう遅い」

「もう目立ってるよ」


 アヴィリアンとその側近にツッコまれて、レーシャが愕然とした表情になったが、ポリーナとあれだけ仲良くし、自惚れかもしれないがルスランと婚約したレーシャが今、目立っていないはずがない。


「前までは存在感を消す作戦が使えたけど、もう無理だからな」

「わかっています。作戦を練り直さなければ……」

「待て待て。何する気だ」


 何の危険を感じたのかアヴィリアンが突っ込みを入れるが、レーシャも別に、そこまで深く考えていたわけではないようで首をかしげただけだった。


 ポリーナが遊びにやってきたので、レーシャがポリーナに取られてしまった。まあ、アヴィリアンが学院で借りている部屋は男所帯なので、いつまでもレーシャを置いておくことはできないのだが。


「……ま、うまくやっててよかったよ」

「全くです。まあ、ルスランのため息を聞かなくなった代わりに、桃色の空気を感じるようになりましたけど」

「惚気られすぎて砂糖吐きそう。でも、ルスラン様が結婚できそうなので我慢します」

「レーシャ様を逃したら絶対結婚できないですよね」


 みんながひどい。確かに見合いは連敗していたが。


「真面目過ぎるからな、お前。そう言うところがいいって言ってくれる相手でよかったな」

「……そうですね」


 やっぱりアヴィリアンが一番ひどい気がする。


 ちなみに、この話をレーシャにすると「仲がいいですね」とにこにこされた。にこにこしているレーシャは可愛いが、ルスランとしてはコンプレックスをつつかれた気持である。


「真面目なのは悪いことではないですし、話の流れ的に皆さん、ルスラン様を慕っているからこそ現状に安堵しておっしゃったのではないですか」


 レーシャがルスランにもわかりやすいようにかみ砕いて説明してくれる。自分は本当にこういう読み取りが下手だな、と思う。逆にレーシャは、雰囲気を読むことができるので引いてしまうのだと思う。


「私はルスラン様が真面目だからって、振ったりしませんよ」


 そう言えば、そうやってお見合いで振られたことがある、と言う話もしたことがあった。よく覚えているものだ。そして、レーシャも結構言うようになった。もともと気が弱いわけではないので、話し出せば結構しゃべる面はあった。


「……まあ、ルスラン様を振ってしまったら、再婚約するのが大変だというのもありますけれど……」


 高位の貴族であるイヴレフ公爵家との縁談を蹴ったために、というよりも、レーシャ自身の問題で、と言うような口調に、ルスランは思わず笑った。お互い、自分に自信がないのだ。結婚不適合者だと思っている。


「私もレーシャに振られてしまったら、お前以上の相手を見つけられないだろうから、見捨てられないように努力しよう」


 自分で思ったよりも優しい声が出て、レーシャが戸惑ったように「ぅあ」と声を上げた。みるみる頬が紅潮する。


「な、なぜそこで赤くなる」

「え……だって」


 レーシャが赤くなった頬を押さえる。その様子を見たルスランも恥ずかしくなって赤くなる。こんなことが、何度も繰り返されており、周囲はすでに食傷気味である。


 こうした事態に耐性のない二人は、今のところ手をつなぐくらいが精いっぱい。ルスランとしては抱きしめたいとか、頬に触れたい、そしてあわよくば、くらいの欲求はあるのだが、気恥ずかしさが先立つのだ。


 ……レーシャはどうなのだろう。聞いてみたい気もするが、聞いて拒否されたら立ち直れない気がする。そして、一人悶々としているわけだ。


 もうすぐ、本格的な冬に入る前に宮殿でこの社交シーズン最後の夜会が開催される。その前に、ファトクーリン伯爵家からの招待状が届いていた。珍しく日中のガーデンパーティーだった。イヴレフ公爵家は、今年も夜会やお茶会を開く気はない。女主が不在であるし、現当主が宰相なので、招く相手が膨大になって面倒くさいのだ。多分、後者の理由が大きい。


 マスロフスキー公爵家の夜会に連れて行ったとき、レーシャはポリーナに相談したのだと言っていた。ルスランの家格に見合うようにしたかったのだと本人からは聞いたが、ポリーナが「ルスランに可愛いと思われたかったんだよ」と口をはさんできた。レーシャが真っ赤になっていたので、多少はその気持ちがあったのだと思いたい。だとしたら嬉しい。


 同時に、自分もレーシャに見合うような格好をしなければならないと思うようになった。あと、せっかくなのだから彼女に合う装飾品などを贈りたい。ドレスはポリーナとともに注文してきたらしいので、できればそれに合う形で。とはいえ。


「……殿下はポリーナに贈り物をするとき、どうされていますか」

「はあ?」


 思いっきり怪訝な声を出されてめげそうになったが、耐えた。レーシャが好きだと気づいてから、自分のメンタルが弱いと思うルスランである。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


書いてると酸っぱい梅干し食べたみたいな顔になってしまう…。


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