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【18】










 先にあいさつを済ませてしまったので、気分的に楽だ。気の早い招待客はすでに会場についているようだが、そう急ぐこともなかろう、とレーシャとルスランは会場の大広間近くの休憩用の部屋で休ませてもらった。その間に、ルスランの弟妹にもあった。妹はまだ十歳で夜会には出ないが、弟の方は三つ年下で、学院の第二学年だ。レーシャの弟妹とも学年が違うからほとんど話を聞いたこともないが、存在は知っていた。大まかな貴族相関図くらいは頭に入っている。


 弟の方には値踏みするように見られたが、普段兄しかいない妹の方は、嬉しそうにレーシャと話をしてくれた。レーシャも兄妹が多いので、年下の相手は慣れている。


「お前は子供に好かれるな」

「そうでしょうか。私も、兄弟が多いですし」


 好かれているかはわからないが、慣れてはいる、と言うと、ルスランは「好かれてるさ」と言い切った。


「レーシャは聞き上手だ。話を聞いてくれるので、なつかれる」

「な、なるほど……」


 それはちょっとわかるものがあるかもしれない。少なくとも、レーシャが口をはさめないので相手の話を聞くことになるのは事実だ。


「……せめて相槌を打てるくらいにはなりたいです」

「それは私もだな……」


 ルスランは相槌を打てるので、レーシャよりはましだと思う。そんな話をしているうちにいい時間になったので、レーシャはルスランにエスコートされて大広間へ向かった。さすがは公爵家。ファトクーリン伯爵家とは規模が違う。


 イヴレフ公爵の跡取りとはいえ、ルスランはまだ学生だ。せいぜい、イヴレフ宰相に取り入りたいものや、彼に娘を紹介したい貴族程度しか声をかけてこない。尤も、この二つは重複していることもあるし、従姉をエスコートする以外は一人でいることの多いルスランがレーシャを連れているので、娘を紹介しようとした貴族はひるんだようだ。レーシャが目立つ方ではないし、家格も中程度なので、様子見、と言った方が正しいだろうか。


「あまり心配していないが、やっかみを受けるだろうな」


 ルスランも状況に気づいており、レーシャに肩をすくめて見せた。レーシャはにこりと笑う。


「大丈夫です。圧力は気にしなければないのと同じです」

「同じではないと思うが。そうではなく、お前は自分の立場を危うくするような振る舞いはしないだろうな、と言うことだ。うまく立ち回れるだろう」

「それは……どうでしょうか」


 ルスランたちは、レーシャを買いかぶっているような気がする。むぅ、と眉を顰めるとルスランが少し驚いた顔をした。


「……ルスラン様?」

「……いや……なんだ?」

「いえ……」


 レーシャも何を聞けばいいかわからずに口ごもる。なんとなく気まずいというか、気恥ずかしい空気が流れ、周囲は微笑ましく、もしくは遠い目で見ている。


「ルスラン。お前、私にも紹介に来い」


 空気をぶち破ったのは年配の男性の声だった。ルスランの祖父、イヴレフ公爵自らが声をかけてきたのだ。まあ、相手が跡取りの孫だと思えばおかしくはないのか。レーシャがその隣にいるので不思議な感じがするだけで。


「……すみません、おじい様。人がひっきりなしにあいさつに来ていたので、遠慮したんですよ」


 気恥ずかし気な表情は一瞬で消えうせ、ルスランは真面目な表情で祖父に向かって言った。イヴレフ公爵は「そうか?」と眉をひそめた。反応がルスランと似ているのでちょっと面白い。顔立ち自体はそんなに似ているように見えないが。


「おじい様、学友のファトクーリン伯爵令嬢エレーナです」

「エレーナと申します。兄がいつもお世話になっております」


 イヴレフ公爵とはニキータと言う共通の知り合い(?)がいる。ニキータは宰相補佐なので、お決まりのあいさつだ。


「イヴレフ公爵だ。宰相をしている。……本当にニキータの妹を連れてきたのか」


 まじまじと見つめられ、レーシャはぱちぱちと瞬く。さすがにちょっとたじろいだ。


「兄にはあまり似ていないな。話を聞く限り、よく似ていると思ったのだが」

「おじい様」


 さすがに初対面の令嬢に言うセリフではない、とルスランが突っ込みを入れる。一方のレーシャはこの感じはニキータと似ているな、と微笑んだ。


「いや、すまん。今度、もう少し話をしよう。職場に来てくれても構わんぞ」


 どうやらイヴレフ公爵は、レーシャが視察に同行したことを覚えているらしい。宰相本人はいなかったが、ニキータが所属する宰相府の許可した視察で会ったのだから、宰相の耳に入っているのは不思議ではない。


「……屋敷へ連れて行きます」


 ルスランが葛藤した挙句にそう答えた。後から、「勝手に答えてすまない」と謝られた。


「あまりお招きいただくことがないのでうれしいです。お土産は何がいいでしょう?」

「レーシャ、心が強いな……」


 気難しい老人のいる屋敷に行くのがうれしい、とのたまう人は滅多にいない、とルスランが苦笑した。


 二人とも社交的ではないので、最低限の人にあいさつをしたら、大広間の隅で行われている出し物を見に行った。ルスランはあまり興味がないようだったが、人ごみの中にいるよりは、とレーシャとともに来た。一応、彼は主催側のマスロフスキー公爵家の人間である。壁際にいるのはまずかろうと言うことだ。結論、ただの仲の良いカップルにしか見えなかった、と同じ夜会に出席していた姉のセラフィマに言われた。


 夜会も中盤になると、アヴィリアンとポリーナが顔を出した。マスロフスキー公爵家はポリーナの親戚であるし、そもそもが公爵家の中でも上の方に入る貴族家だ。第二王子が顔を出すのは不思議なことではない。


「だが、あの二人は私たちの様子を見に来た可能性もあるな」


 ルスランの小さな声に、レーシャはうなずいた。その可能性はある。ポリーナはいい笑顔で手を振ってきたし。ルスランがため息をついた。


「昔からからかわれてばかりだ」


 生真面目だからいじり甲斐があるのだろうか、などと思ってルスランの顔をのぞき込み、レーシャははっとした。


「あっ、やられたってポリーナちゃんにからかわれたんですか」

「は?」


 ルスランが首を傾げた。いつの話か情報が足りなかったか。レーシャがお見合いをすると思って焦って告白してきた時の話だ。あの時ルスランは「やられた」と口走っていたが、何のことか説明してくれなかった。そのことを言うと、彼は嫌そうな表情になる。


「……まあ、そんなところだな」


 やっぱりはぐらかされた気がするが、レーシャは首をかしげただけでそれ以上は聞かなかった。その前にアヴィリアンとポリーナにあいさつに行ったからだ。


「招待ありがとう、ルスラン」

「正確には私がお招きしたわけではありませんが……」


 ルスランの縁で呼ばれたことは間違いないが、ルスランはホスト側ではない。ややこしい。レーシャはポリーナに声をかけられた。


「エレーナちゃん、いつも可愛いけど今日は一段ときれいだねぇ。って、ルスランに言われた?」

「ありがとうございます。ポリーナちゃんも相変わらずかっこよくて美しいです」


 後半の問いはひとまずスルーし、レーシャも褒め返す。ポリーナは鮮やかな緑のドレスを着ていて、大人びた感じがよく似合っている。きりっとした顔立ちのポリーナによく似合うデザインになっていた。一応、レーシャだってその格好がその人に似合っているか、似合っていないかぐらいはわかるのだ。


「レーシャもやっぱり青にやつにしたのね。似合ってるけど、うーん……」


 もうちょっとこう、と手が動いている。うーん、ともう一度唸った後、「ねえ、ルスラン」と声をかけ、声をかけられたルスランは「は?」と反応する。


「なんだ?」

「聞いてなかったの? レーシャのことだよ」

「ポリーナ、さすがに今のことでルスランを責めるのは無理があるぞ」


 苦笑したアヴィリアンにツッコまれ、ポリーナは肩をすくめた。さすがに言いすぎの自覚はあったらしい。


「エレーナちゃん、もっと似合うドレスがあると思わない?」

「……よくわからんが、今日のレーシャは一段と可愛らしいと思う」


 真面目なトーンでポリーナに答えるルスランに、レーシャは赤くなってうつむいた。今日会ってから、ルスランに姿のことで何か言われたのは初めてだ。迎えに来てくれた時は、母の怒涛の発言に圧倒されていたので。


「……わかったから、俺の見ていないところで仲良くやってくれ」


 驚きに目を見開いたポリーナに対して、アヴィリアンはため息をついてそう言った。ポリーナ曰く、「素で惚気られるから、当てられたんだね」とのことだった。ちょっと違う気がする……。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


初々しい感じを書きたいのですが、無理…。


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