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【14】








 一人で部屋を借りて暮らしているニキータは、あまり屋敷に帰ってこない。とはいえ、全く帰ってこないわけではないので、たまには屋敷にいることもある。今日はいた。レーシャがニキータと外で会うことが多いので、屋敷にいないように思うことが多いだけだと思う。


「レーシャ、お前、次のマスロフスキー公爵家の夜会に出られるか?」


 いつもと違う聞き方をするニキータに、レーシャは首をかしげながら、「いいけど」と答える。すると、了承したのにニキータに首を傾げられた。


「お前、宰相の孫息子と付き合ってるんじゃないの」

「つ……っ」


 一瞬で赤くなった妹に、ニキータは「おっ」と声を上げた。レーシャがあからさまな反応をしたので、他の兄弟も驚いた表情になった。レーシャは慌てて首を左右に振る。


「つ、付き合ってない!」

「そうなの? 跡取りを妹に篭絡させて、宰相へ取り入ろうとしてるって言われるんだけど」

「ええ、何それ。レーシャにそんなことできるわけないじゃない」


 妹のミラが眉をひそめて言ってのけた。ちなみに、姉のシーマは婚約者と出かけており、長男のクラウジーも宮廷に出かけている。ニキータは休暇らしい。


「まあ、そうだよな。俺もそんな指示した覚え、ないし」

「……」


 レーシャは何と答えるべきか迷って口ごもる。これまでも何度か似たような話題が、同じ相手に出ているが、それまでとレーシャの反応が明らかに違うので、弟妹達は察するものがあったらしい。妹二人はニヤニヤしているし、弟のエリセイは微妙な顔をしている。


「まあ、イヴレフ公爵の後継者様、レーシャに興味があるみたいだったけどさ」

「ああ、私もよく見るわ、一緒にいるところ」

「……」


 エリセイに同意するようにミラが言うので、レーシャは目立っていたのか、と愕然とする。考えてみれば、それはそうだ。ルスランは学院で注目の的なのだ。


「だろうなぁ。王宮の夜会でもレーシャに気があるように見えたもん」


 変人だが有能で観察眼のあるニキータにはそう見えたらしい。末の妹のノンナが、「付き合ってないのよね?」と確認する始末である。


「兄上から聞いた縁談、断ったんだろ。それを考えても、お前がいいならいい縁組だと思うぞ。イヴレフ公爵の孫息子は真面目だ」

「朴念仁の間違いじゃなくて?」


 エリセイ、きつい。


「まあそうなんだけど。断ったら断ったで面倒なんだよな……ていうか、孫息子、今お見合い連敗中だろ。レーシャに異存がないなら受けた方が合理的だし喜ばれる」


 一石二鳥だ、とニキータは言うが、どの辺が一石二鳥なのだろうか。ルスランも助かるし、ニキータも地盤が強化できる、と言うことか? そこに、ミラも口をはさむ。


「私もいいと思うわ。ニキータお兄様がそこまで言うのなら、だますような人じゃないようだし、それに、レーシャに決まった相手がいた方が、私も恋人を探しやすいもの!」


 どうやら、ミラは気になる相手がいるようだ。姉に相手がいないことが気になるようだが、レーシャが気にしないのでミラも気にしなければいいのに、と思うが口に出さない。というか、さっきから口を挟めていない。


「……ミラの意見はともかく。私とルスラン様が、その、恋人、になったら、ニキータお兄様はやっぱり利用しようとしてる、とか言われて困るのではないの?」


 最初に言われたあたりをついてみると、ニキータはいや、と首を左右に振る。


「お前と孫息子は相思相愛で、お前が兄上が持ってきた縁談を断ったのも、孫息子がお見合いに連敗しているのも、お互いが好きだったからだ、と美談にできる」

「できる、じゃなくて、する、の間違いでは」


 さっきからエリセイのツッコみの切れ味が鋭い。ニキータはエリセイを歯牙にもかけずに「で」と話を続ける。


「以上を踏まえて、お前、マスロフスキー公爵の夜会、一緒に行ける?」

「お兄様もそろそろ妹じゃなくて恋人を連れて行けばいいんじゃないの。ほら、ご執心の伯爵家のお嬢様は?」

「振られたんだよ!」


 なんと、振られたのか、とレーシャもニキータを凝視した。ツッコみを入れたら何とも言えない事実を引き当ててしまったミラは、「そ、そう」と動揺気味だ。


「ま、まあ、レーシャが一緒に行かないなら、私が一緒に行ってあげるわよ」

「いや、ミラは口うるさいから遠慮したい」

「お兄様、そういうところよ!」


 ミラがカッと目を見開いて叫んだ。レーシャもエリセイも、末のノンナさえうなずいている。ひとまず、ニキータは自分がよくしゃべるせいか、おっとりした相手の方がいいようだ。


「振られたのだって、あなた妹の方が大事じゃない、ってさ! シスコンなのは認めるけど」

「……なんだか申し訳なく」

「いや、いいんだ。彼女は人気があったし。だが、レーシャを預けられる人ができない限り、俺は恋人もできない」


 断言された。ひどい。半泣きでふるふる震えるレーシャである。


「……レーシャ、おっとりしてるけどしっかり者だと思うけど」


 エリセイがフォローするように言う。ノンナが「しっかり者……」と懐疑的であるが、ミラもエリセイに同意するように「そうね」とうなずいた。


「お兄様がかまいすぎなのだと思うわ」

「いや……鍛えがいがあるんだよなぁ」

「なんか思ったのと違う!」


 騒がしい兄弟たちである。というか、結局レーシャはあまりしゃべっていない。しかし……そうか。ルスランに誘われる期待をしてもいいのだろうか。それを期待している時点で、レーシャはルスランは憎からず思っているわけだ。


「……来週までには結論出す」

「頼む。できれば、その時の孫息子殿の口説き文句を教えてくれ。参考にしたいし、真面目な朴念仁と言う噂の孫息子の必死さが気になる」

「あ、朴念仁なんだね」


 自分が入れたツッコみを覚えていたのだろう。エリセイが納得したようにうなずいたが、彼はさっきから少しずれている気がする。


「……教えないわ」


 好奇心丸出しのニキータに、レーシャは言った。そもそも、誘われるとは限らないし、こちらから誘ったとして断られる可能性だってある。今はイヴレフ公爵の跡取りとして、イヴレフを名乗っているが、もともとルスランはマスロフスキー公爵家の長男である。いわば実家なのだ。レーシャなんかを誘うだろうか。


「ひとまず、お兄様はレーシャのことよりも自分の情緒を育てた方が建設的ではないかしら」


 ミラのツッコみはごもっともであるが、これがなんとかなるのであれば、ニキータは変人として知られなかったと思う。ニキータは自覚のある変人なので、妹の切れ味の鋭い突っ込みに少々傷ついたようだった。


「兄上、レーシャにっていうより、妹に甘いよね?」


 エリセイのツッコみは最後まで無視された。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちょいちょい挟まるエリセイのツッコみ。


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