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きっと小説でも呪い解除後の少年期の姿で描かれた結末だったし、この世界でも学園で勉学に励み、徐々に成長していく過程のアーデンしか知らないせいだ。
今までさんざんお世話してきたから紳士然としたそのギャップに戸惑ってるだけだ。
気持ちを切り替えてどうにかしよう。
「あの、アーデン。少し散策しませんか?」
昨日の心残りを解消すべく、早朝の散歩で気づいた場所へと促した。
そこは馬番時代に小屋から食堂に向かう途中に植えられていた低木があるところ。
季節的に細い枝にたくさんの葉を茂らせ、その隙間には紫色をしたたくさんの小さな実がついている。
10年前から変わってないと嬉しくなって一つ摘まんだ果実はブルーベリー。
誕生日に何もできなかったと悔やんだ私は食べ頃の実を形だけでも贈ることにしたのだ。
あまり待たせられないととりあえず片手程度に摘んだ実を捧げる。
「遅れましたがアーデン、誕生日おめでとうございます」
幼少時代から特別な何かを食べてきた誕生日。私の中でのアーデンは侍女時代の頃のままでいい。
ずっと気になっていたが不自然なまでにアーデンが関わっていそうな深い話を皆はしようとしなかったのだ。
マーデリンも家庭を築いていた。もしかするとアーデンにもそういう人がいるのかもしれない。
10年も経ち、公爵となっているのだ。結婚していない方が不自然なのだから。
今後はフロンテ領に来訪した際、そのまま移り住み管理を手伝わせてもらえるよう申し出よう。
離れることで呪い前の気まずさを払拭するためにもちょうどいいのだ。
「セシリアはこんな私でも子ども扱いしようとするのだな。だったらきちんと食べさせてくれ」
アーデンは顔を近づけると小さく口を開けた。一粒摘まんで口へ運ぶ。
確かに食べ頃だと呟いた後、再び口を開く。摘まんでは食べを繰り返す内に無くなるまでは終わらないと悟った。
ようやく最後の一粒になり、段々と恥ずかしくなってきたやり取りが終わることに安堵した途端、
「お返しだ」
両手をグイッと掴まれ、気が付いたら口づけられていた。
やんわりと口を開かれ、甘酸っぱい味が口内を支配し、コロンと何かが入る。
驚いた拍子に顔を離し、噛み締めればじゅわりと果汁が広がった。
瞬間、いつも食べさせ合っていたことが過ぎり、それを実行したのだと判った。
アーデンは小さく笑った後、真顔になり、突然片膝をつき、私の手を取る。
「セシリア、私の我儘で10年待たせてしまった。ずっと変わらず愛している。どうか私と婚姻を結んでくれ」
私を捉え続けるアメジストの瞳が熱情帯びて真摯に訴えた。
「呪いは聖水だけでは完全に解くことはできないと言われていた。お互いが求め合うことで大成すると。だからこれは賭けでもあった。だが目覚めてくれた。それが答えだろう、セシリア」
まさか……真実の愛?
小説にとらわれ過ぎて自分自身をおざなりにして気持ちを抑え込んでいた。
前世で報われなかった一生をやり直せるチャンスを貰っていたのにどこかで幸せになれない自分がいると思い込んでいた。
生まれ変わった私の人生は私のものだというのに傍観して気づかない振りをし続けた。
「私を幸せにできるのはセシリアだけだ!」
アーデンの言葉に全身が熱くなる。私も幸せになっていいのだと主張されてるようだ。
呪いを受けた時、私は選択肢を与えられていたのだ。だけど既に結論を出していた。
彼の前で目覚めたことが私自身で導き出した答えで今があるのだから!
「私でよければアーデンを幸せにさせてください」
アーデンは立ち上がると私をギュッと抱きしめた。
「……これで私は幸せになれる」
私の前世を呼び起こしたアメジストの瞳がキラキラと輝いた。
もう惑うことなく、真っ直ぐに見つめ、受け入れることができる。
信じられないくらい心が軽く、それでいて満たされている。
やっと手に入れることができた幸せを守り続けていこう。
それが私のできる唯一のことなのだから。
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