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「いえ、単純に無理をなさる方なのでお身体の方が心配なだけで」


 そう答えると少し表情が緩んだ。どうしてそんな顔をするのだろう。

 まるで10年前の時と変わらない熱情が見え隠れしているように見える。

 アーデンにはマーデリンがいるのに。


「セシリアと父上との婚約は既に解消されているが私が会わせることができる。今はフロンテ領で静養を兼ねた隠居生活でとても元気に過ごしている。そのことはご両親から詳しく訊くといい」


「両親に、ですか?」


「ああ、今お二人はフロンテ領を管理している。領地にはセシリアの様子を踏まえてもう少ししてから赴こう。きっと大歓迎してくれるはずだ」


 思い出したかのように顔を綻ばせるアーデン。こんな風に笑った顔を見るのもいつ以来だろうか。


「笑顔はあの頃から変わらないのですね」


 滅多に笑わないアーデンが見せた懐かしい雰囲気に思わず言葉が出てしまった。  


「セシリア……」


 真顔になったアーデンがそっと手を握った。アメジストの瞳がかち合い、胸の鼓動が高鳴ってくる。

 何かを期待してしまう私がどこかにいるような気がして慌てて手を放す。

 いけない。このままでは私がエリオットとルイーザのような関係を疑われるようになってしまう。

 真実の愛を見つけたアーデンに小説上の悲劇を再び繰り返すようなことがあってはならない。


「余計なことを言いました。今は公爵様でしたね。ただの侍女が立場を弁えないといけません。それにマーデリン様が見ていたら勘違いなさいます」


「……さっきの言葉を覚えているか、余所余所しい態度は禁止だ。立場など関係ない。それにセシリアはもう侍女ではない。……ずっと引っ掛かっているのだが、先程から……」


 アーデンがため息をついてから何かを言いかけた時、両親が訪れた。


「セシリア、良かった!!」


 大声を上げてお父さまとお母さまが涙ながらに部屋へと入ってきた。

 10年経ったというのに以前と変わらず、というよりむしろ元気そうだった。

 あの頃のやつれたような姿というよりは肌艶が良く年齢相応に丸くなった雰囲気だ。

 フロンテ領に移ってからの生活が潤っているのだろうか、健やかそうに見える。

 アーデンは両親との時間を譲るように退室した。 

 私は先程の話を補足する形で10年間の出来事を聴かされていた。

 ブランディンは王女を害した罪で流刑されたこと。

 エリオットはその流刑地に近い領地で隠居生活を送っていること。

 カーティスとの婚約解消と呪い解除に協力していたこと。 

 アーデンが学園卒業後にカーティスから公爵を譲り受けたこと。

 その引退の際、フロンテ領の管理を任されることになったこと。


「ともかくいろいろとあったが、現公爵様が、それはもう熱心に熱心に働きかけてくれて……」


「あなた!」


 饒舌に話すお父さまを嗜めるようにお母さまが遮った。


「ああ、そうだった。すまんな。……まあ、私たちはフロンテ領で元気にやっているということだ」


 うっかり口を滑らすところだったと慌てたように取り繕うお父さま。

 ちょうど話の一区切りついたところでノック音が響く。

 返事をすれば歳を重ねた見知った顔が入ってきた。そしてその足元には銀色の髪をした小さな男の子。


「もしかして、ボルト様でしょうか?」


「はい、久しくなりますね。無事目覚められたとお聞きし安心しました」


 騎士服でない姿のボルト様が軽く会釈をすると両親が慌てたように立ち上がる。


「こ、これは、フェルトン子爵! ご無沙汰しております!」


 お父さまが声を上げると驚いたように男の子がパパとボルト様の足元に小さく抱きついた。


「ふふ、ルイが驚いているわ。お二人とも息災そうで何よりです」


 ボルト様の背後から先程の美女が御包みを抱えて顔を覗かせる。


「ルイ様、驚かせて申し訳ございません。子爵夫人もご出産おめでとうございます!」


 お父さまとのやり取りとその発言、目の前の光景に衝撃が走る。

 一体、どういうことになっているわけ?!

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