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「意識や記憶は問題なさそうだが身体に違和感など感じられないか? 見た限りでは異変は感じられず顔色は良さそうだが実際のところは判らないからな」


 そう言いながらペタペタと顔を触るアーデン。骨太となった大きな手が妙に慣れない。


「……あの、大丈夫、そう、です」


「そうか」


 アーモンド型の瞳を細めさせ、本当に近い位置で微笑む姿に勝手に胸が高鳴ってしまう。

 少年だったはずの彼がこんな風な大人になっているとは予想外過ぎて動揺が収まらないのは確かだ。


「それで……」


 ひと安心したアーデンは私が倒れた後のことの語りだした。

 ことの流れはエリオットの滞在中に起こり、王女に対する不敬罪ということで直ちにブランディンが取り押さえられた。

 その理由は小説でもあった通り、マーデリンを傀儡にするためだったのは間違いなかった。

 そして庇った私が倒れ、身代わりの呪いにかかったことが判明したらしい。

 成長が止まったまま眠り続ける呪いを解くためにアーデンが主体となり、マーデリンが国力を上げて協力してくれたとか。

 そのおかげもあって近隣国の聖なる峰に湧く水で浄化すれば解除できるという方法を見つけた。

 その期間が約1年かかったらしい。確か小説でもそのくらいを費やしたはず。

 エンディングへと向かう物語は聖水を口に含み願いを込めてマーデリンがアーデンに口づけると呪いが解除される。

 お互いを思い合う気持ちが真実の愛へと導いた感動の結末だ。

 残念ながらそれを見ることもなく二人は結ばれたようだが、何かが変だ。

 解除方法が判ったなら聖水を飲ませれば私はすぐにでも目覚めたはず。10年かかった理由とは何だろう。

 やはりイレギュラーな私の存在では効かなかった可能性がある。それで苦労させたのかもしれない。

 何よりお互いが求めあう真実の愛の力というのが要の小説だったから。


「あの、私の両親は今どうしているのでしょうか?」


「ああ、部屋で待機している。あとで顔を出すだろう」


「そう、なのですね。……あ、それから私の、……婚約の件、は、どうなったのでしょうか?」


 何となくアーデンから訊きづらい内容だが仕方がない。他に誰もいないのだから。


「……セシリアはすぐにでも父上に会いたいのか?」


 少し声音が低くなり、探るようにアーデンは見つめた。その発言に驚く。


「え、ち、父上?! 知ってしまったのですか? カーティス様のことを……!」


「実は今、私が現グリフィス公爵となっている。そうなった経緯で知ることになった」


「アーデンが、公爵!」


 真のエンディングを見た気がした。小説では真実の愛で結ばれた形で終わり、それはそれで感動的な結末だったけれど消化不良気味だった。

 エリオットから長男だったカーティス、そしてその息子であるアーデンが公爵。

 紆余曲折から苦労して正統な持ち主が継承を受け継いでいる。

 マーデリンとの愛を育んでグリフィス公爵家を盛り上げているに違いない。

 これ以上のアーデンの幸せは私には果たせない。やはり次世代へと貢献するしかない。


「おめでとうございます!! 本当に良かったです! そういえばマーデリン様が抱えていた赤児様は男児なのでしょうか? お名前は?」


「いや、先月産まれたばかりなのだが女児でソフィアと現国王が名付けられた。……それより」


「そうですか。ソフィア様というのですね。きっと可愛らしいのでしょうね」


 グリフィス公爵家にさらなる後継者が誕生とは都合良すぎる考えだった。

 けれど国王が命名するぐらい親密な架け橋となっている女の子に違いない。


「んんっ、少し話を逸らされたような気がしてしまうが、セシリア、それで父上のことはどうなのだ?」


 射るように見つめられ、紫の瞳が鋭く光って少し怖い。


「カーティス様にはお会いしたいです」


 アーデンが強張ったように息を呑む。


「……それは、実際に父上を愛していた、からなのか?」


 その瞳の憂いが10年前を彷彿とさせていた。

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