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「まあ、無事に目覚められたのね、良かったわ!」


 嬉しそうに近づいてくる美女はマーデリン、であってるだろうか?

 

「……困ったわ、どうお呼びすればいいのかしら。もうお義姉さまと呼ぶのは無理でしょうし、名前でお呼びしてもいいかしら、ね、アーデン?」


 戸惑った様子でアーデン? に話しかけるマーデリン? は随分と親し気に見えた。


「それより意識を取り戻したばかりだ。現状を説明するのが先だろう」


 そう言い放った時、彼女の抱えていた御包みから泣き声が響き渡る。


「あら、ごめんなさい。しばらく席を外すわ。アーデン、説明をお願いね」


 あやしながら慌てて出ていく美女に当惑しながら少しでも状況を把握しようとした。

 もしこれが呪術後の世界であれば今のは太陽姫でここにいるのがアーデンのはず。

 どう見ても知っている頃の二人とは異なり、大人として成長している様子。

 しかも赤ちゃんを抱えていて先程のやり取りから親密そうに見えた二人。

 

「私のことが判るか? セシリア」


「あ、アーデン……様、で合ってますか?」


「ああ、そうだ。私はアーデンだよ、セシリア」


 しっかりとした物言いで目を細めたが見た目も雰囲気も立派な紳士に感じる。

 どうやら大人になったアーデンで間違いないようだ。


「驚かないで聞いてほしい。セシリアが倒れてしまってから今は10年の月日が経っている」


「……じゅ、10年?」


 あまりの時の経過に呆然となる。まるで浦島太郎な状態で意識が戻ったようなのだ。

 小説では呪いで眠ったアーデンを太陽姫が1年後に目覚めさせたというのに。

 いや、それより目覚めさせてもらえただけでもまだ良かったといえる。

 イレギュラーな私が代わりに呪いを被ったせいで番狂わせが生じ、歪んだ形で解除が10年もかかったのかもしれないのだから。

 それにこの様子では真実の愛に気付き、二人が結ばれて子までいる状況になっている10年後の世界観に違いない。

 長く眠っていた間に幸せを迎えたかもしれなかった。


「……あ、あの、アーデン様は今、幸せですか?」


 何故か不意に胸の奥が痛む気がしながら問いかける。


「……いや、まだ半分程度というところだな」


「そう、ですか」


「だから残りはセシリアに埋めてもらわなくてはいけない」


「え、私がですか!」


「ああ、ずっと前から言っていただろう。私を幸せにすると」


 確かに私はそう言い続けていた。でもそれは小説のハッピーエンドを知っていたから。

 不幸な身の上で紆余曲折ありながらもそうなる方向を信じていたからこそ言えたことだ。

 けれど今は太陽姫と結ばれ、家庭すら築いている様子で幸せになっているはず。

 これ以上どうすればアーデンは幸せと思わせることができるのだろうか。


「分かりました。……そうですね、では先程の赤児様のお世話役をかって出ますね」


「……何故そこは私ではないのか」


 少しむっとした様子のアーデンはずいっと顔を近づけた。

 アメジストの瞳がかち合い、ドキリとする。


「み、見たところ、アーデン様は立派な大人のようです。もう私の手は必要ないように思えます。それよりも……」


 気恥ずかしくなり、顔を逸らすとガシリと手首を掴まれた。


「セシリアには私がもう立派な大人に見えるのか?」


「当たり前ではないですか。私の知ってる頃と違います。見た目も物言いもすっかり大人でまるで貴族紳士のようです……、あ!」


 そう言えば今、グリフィス公爵家はどうなっているのだろう?

 それにアーデンの立場も、お父さまやお母さまも、婚約の状況も、わからないことだらけだ。


「あの、アーデン様。この10年もの間、何が起こったのか教えてもらえますか?」


「ああ、それを話そうと思っていたが、先にその敬称呼びで余所余所しい態度はいいかげんやめてくれないか」


「ですが……」


「言っておくが今日で誕生日を迎え、私がセシリアより年上となったのだから従ってもらうよ、分かったね」


 有無を言わせないアーデンがしっかりと見据えていた。

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