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「それで、フェルトンさんはいつ辞めるの?」


 男爵令嬢のお姉さまの一人、アルマさんが不意に問いかけてきた。

 今は別館3階にある伯爵令嬢の方々に宛がわれた個室内。

 私たち2人以外今は誰もいない。

 もう一人の令嬢ニコルさんはデリアさんと共に個室に残されていた支給品をどこかへ運び出していた。

 

「あたしとニコルは来月いっぱいよ」


 今はちょうど一か月半が過ぎた頃。来月中頃にはアネットさんが任期満了する。 

 もう一人の子爵令嬢の方は残念ながら知らない。


「いえ、私はまだそんな……」


 予想もしない問いかけに不審がるとアルマさんは驚いたような顔をする。


「確か、貴方は婚約してなかったわよね?」


「……はい」


「もしかしてあの二人と同じく何も知らないで志願した、……とかいう状態なの?」


 言ってる意味が全く分からない。あの二人も誰のことかも。


「今、別荘班の二人よ。公爵家の侍女に憧れてたって言ってたわ」


「あ、もちろん、憧れは、ありました、けど……」


 言葉を濁しがちに答える。もちろん、それだけじゃない事情がある訳で。

 アネットさんは別にしてもう一人の令嬢は本格的な侍女志願なんだろうな。金銭は抜きにして純粋に。


「そう、だったら教えてあげる。ここで頑張っても意味はないってことを」


 意味深に笑うアルマさんは得意げに語り始めた。


「あたしとニコルはね、ここへお小遣い稼ぎに来てるのよ」


 二人とも既に既婚者で20代半ば。まだ子供がいないから時間があるらしい。

 5年前から毎年期間限定でこのフロンテ領の侍女として働きに来ているとか。

 やたらと手慣れた感じがしたのはそのためなんだ。

 でも、毎年ってどういうことだろう?


「毎年同じような仲間もいたけど、子宝に恵まれた子からどんどん抜けていって残っているのがあたしたち。だって、身一つで気軽に行けて待遇も給与も良くて、美味しい仕事だものね?」

 

 あっけらかんと笑うアルマさんは意味深に付け加える。


「……ただし、()()()()()でって話だけど」


「どういうことですか?」


「ふふ。じゃあ、グリフィス公爵家が毎年侍女を募集してることは知ってる?」


「いえ、今回初めて募集をしているのを知りました」


「ということは勢いで応募して何の疑いもなくここまで来たってことね」


 アルマさんは可笑しそうに私を見つめると説明を始めた。

 グリフィス公爵家は初春頃から卒業シーズンまで毎年侍女を募集している。

 大量の応募があるが全て採用となり、全員に通知が来るようになっていた。

 もちろんそれ相応の令嬢もいるが、結婚前の箔付けや名声欲しさの形だけの侍女、最近では婚約者候補狙いとして申し込む令嬢が後を絶たないらしい。

 それを公爵家は見込んでいて通達日に参加した際に宛がわれる領地によって選別されているとのこと。

 王宮落ちで見込みのある令嬢などは王都やグリフィス領に採用され、それ以外はおまけみたいなもの。

 だから配属先が判ると辞退する令嬢が大勢でるらしいからあの時目減りしたと思ったのは間違いなかった。

 当日になってさらに少なくなったのは前日目減りした雰囲気を不審に思った令嬢たちが事情を知ったからといえる。

 何も知らない私は浮かれ気分で両親に報告したのに対し、違和感に関しては一切話さなかった。

 もし話していたらこんな事情を知ったかは判らない。

 何せ我が家は崖っぷち。おまけであろうと採用されて働けるのであれば辞退すらしなかったと思う。

 あくまで私は給与目当てだから何の問題もないし。

 まあ、プライドのある令嬢にとってはおまけ扱いは屈辱なのかもしれない。

 それにアルマさんの言う通り、信じられないくらいの待遇や給与で美味しい仕事だと思える。

 むしろこの内容で働けるのであればありがたい限り。

 2週間近く多少忙しい思いをしたけど、辛いわけではなかったし。 

 その点でいえば私にとっては問題ない職場だけど何かが引っ掛かる。

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