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 フロンテ領の滞在時間はあっという間に過ぎていった。

 あの晩餐以来、公爵家の面々とも接触はない。

 休暇とはいえカーティスは数日居た後、早々にフロンテ領から旅立った。

 滞在中も領内を回っていて私との対面は初日以来無かった。

 もちろん不在であっても露骨な嫌がらせは起こらなくなり、以前貴族侍女として迎え入れられた頃の扱いに戻った感じで差し障りない。

 その辺のプロ根性というか切り替えはさすがだと思うハーパーさんだ。

 が、今回の貴族侍女たちならともかく娘二人は隠そうとしても嫌悪感が漏れ出てしまうのはどうなのだろうか。

 まあ、すんなりことも運ぶはずもないだろうと思っていたから私も敢えて必要以上に接触をすることはしない。

 それに婚約とはいえ、まだ正式に公表されていないこともあったので立ち位置はアーデンの専属侍女として目立たないよう行動していた。

 只でさえブランディンを刺激してしまったのだから控えめに、と。沈着することはないかもしれないが。

 それからアーデンには一定の距離を置くよう徹底的に接した。

 時折、何か言いたそうな顔をされたが私はそれを上手くかわすのみ。

 当たり障りの無いように親し気な態度を取り過ぎてはいけないと自分に言い聞かせながら。 

 そんな風に休暇が終わり、王都へ戻っていたのだ。



「セシリア、本当に私たちがお伺いしても大丈夫なのかね?」


 お父さまが青い顔をしながらお母さまと一緒にタウンハウスへと赴いてきた。


「はい。カーティス様がお待ちになってます」


 フロンテ領から戻って数日後、婚約の件でついにカーティスからお呼び出しが掛かる。

 急いで両親には申し込まれた旨を丁寧に話し、大変驚かせたが喜んでくれた。

 フロンテ領に立つ前に悩んでいたのがこれだったのかと納得している様子でもあった。

 正式に公表する前の準備も兼ねて挨拶するような流れで今に至る。

 平民といえ元貴族でもあったが縁遠かった公爵家の馬車が場違いにも迎えへ。

 こちらへ到着した時には慣れない状態で二人ともオロオロしていた。

 どうにか落ち着かせつつ客間へと案内し、カーティスと対面する。

 ちょうどブランディンとアーデンは学園で不在だ。


「耳にしたと思うが突然の申し入れで足労願ってすまなかった。これから公表するにあたり迷惑をかけるが許してくれ」


 カーティスは少し疲れた顔をしていた。きっと今回の件でバタバタとしているに違いない。

 年内に婚姻を結ぶために急いでいるからだ。私が何もできないのが少し憚られる。


「と、とんでもございません。ありがたき申し入れ、喜ばしく受け入れたく存じます」 


 委縮しながらお父さまは返事する。お母さまは緊張で表情が固まったままだ。


「許諾を得ることができ嬉しい限りだ。立場上、風当たりが強いこともあるだろうが私が責任をもってご息女を守っていくと誓う」


「勿体なきお言葉、ありがとうございます」


 挨拶に区切りがついた後、書類にサインをし、この会合は終了した。

 終始緊張した空気が続き、ぎこちなかったのは致し方ない。


「……これからが忙しくなりそうね」


 帰り際馬車に乗り込む前、ようやく緊張の解けたお母さまが不安そうにポツリと呟いた。

 私が返事をして以来、どんどん話が進んでいくのにはブランディンが爵位を継ぐ前に済ます必要があるからだ。

 通常なら高位貴族が婚約してから半年以内の婚姻は考えられないほど強行突破といえる。

 それなりの根回しや準備で1年を費やすのが普通。それをほぼ強引に進めるから異常なのだ。

 発表と同時にすぐ準備に入ることになり、毎日が慌ただしくなるのは目に見えていた。


「私たちに手伝えることがあればいいなさい。遠慮することはないからな」


 お父さまがポンと私の肩を叩くと優しく微笑んだ。お母さまも寄り添いながら頷く。

 先程までの緊張感がなかったかのように温かい。


「……ありがとうございます」


 私は今世でこのような両親をもって幸せだ。

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