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「アーデン、今回の件のことですが……」
ランプをテーブルに置き、アーデンと向き合う。もうここで切り出すことにした。
今更戻って話す時間を改めて設けようとも遅くなりそうな気がしたから。
先に説明して話を済ませてから就寝準備をした方がよさそうだと判断した。
「……僕のためと言いたいわけ、セシリア?」
押し殺したような声が響き渡る。
アーデンは察していた。この結婚の意味を。
「だとしても、嫌だ。婚姻を結んで欲しくない」
「ですがこれが最善だと決意しました」
「いつ?」
「昨日、カーティス様にご返答させていただきました」
「返答? 以前からそういう話が……、知らない間に?」
「それは……」
もちろんアーデンには黙っていた。
あの頃は学園入学だけに集中して欲しかったし、衝撃な事実を知った私から何も言えるはずもない。
ブランディンのことにしても私だけでもどうにかしてみせると思っていたから。
それでも断ることも行わず、ズルズルと返事を先延ばしにしていた。
……何故ギリギリまで渋ってしまったのだろうか?
本心はカーティスと結婚したかった?
「セシリア、答えて」
「……最後にボルト様がグリフィス領に訪れた時、申し入れがありました」
アーデンはショックを受けているようだった。もうかなり前のことだ。
「黙っていて、申し訳ありませんでした。余計な私事に気を散らしてほしくないと思いました」
「……余計な、こと?」
「はい。入学だけに目を向けていただきたく、優先順位を間違わないようにしなければ、と」
「セシリアのことで余計なことなど、無い。……以前は何でも打ち明けてくれた!」
薄暗い中でもアメジストの瞳だけが明かりに照らされ揺らめいた。
「まだ頼りない存在というのは解かってる。それに僕のことであったとしても……婚姻を結ぶな!」
アーデンは私に近づく。その顔は泣きそうな表情をしていた。
「……私はただアーデンの幸せを望んでいるのです」
「だったら、……何故、わからない」
アーデンは私の腕を引き寄せるとそのままギュッと抱きしめた。
「僕はセシリアが好きなんだ」
ついに決定的な言葉を聴いてしまった。
いつからだろう? もしかすると好意を寄せられているのでは……と感じだしたのは。
最初は母親代わりとして慕っているからだと受け止めていた。
貴族教育が進む中、私を見つめるアメジストの瞳が時折熱帯びて見えることがあった。
私の勘違いで気のせいだ。見間違えているだけと何度も思った。
名前を呼ぶ声も手を取る指先も熱意など持ってはいないと言い聞かせながら。
「いいえ、アーデン様のそのお気持ちは思い違いです。私がずっとそばにいましたから愛着と愛情を勘違いなさっているのです。アーデン様にはもっと相応しい方がいらっしゃいます。そちらに気付いてください」
小説では心の支えとなるのがマーデリンなのだ。私が横入りしたばかりにおかしくなってしまった。
本来はマーデリンに向けられる感情が間違って私に向いてしまっただけ。
修正しなければアーデンは真実の愛へと辿り着けない。幸せになれない。
このままではマーデリンとアーデンが結ばれなくなってしまう!
「私はただの専属侍女としてアーデン様のそばにいるだけです! そしてカーティス様の婚約者です!」
そう言い切ると腕の拘束を解く。もう親し気な態度を取ってはいけない。
分を弁えないと物語が破綻してしまう。これでいいんだ。
幸せは望んでも恋慕は受け止めてはいけない。間違いがあってはいけない。
例え私の中で何かが芽生えようとしたとしても!
「アーデン様、戻りましょう。就寝のお手伝いをさせていただきます」
踵を返すとランプを手に取り、荷物を掴んで先に階段を降り始める。
アーデンは荷物を持とうとしたが私は手を離さなかった。
これからはけじめとして一線を置いて接しなければいけない。
今ならまだ間に合う。間に合わせなければならないと言い聞かせながら。




