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「性急なことを行ない、すまなかった」


 カーティスの部屋に訪れた私はすんなりと謝罪されてしまった。


「君はここへ来た早々、相手にもされない扱いが目に映った。最も以前よりそうなのだと気づけず、改めて長い間すまなかった」


「カーティス様、誤解なさらずに。過去には私も抵抗するような態度を示していたこともありますので。ですが、今回の件は少々お待ちいただきたかったです。まだアーデン様には黙っていたので」


「アーデンも察しているだろう。あの君の扱いは命に係わっていた。何かあった後では遅い」


 やはりカーティスは先手を打ったのだ。私の身の上を案じて。

 そのおかげだろうか、突然、2階のゲストルームが用意されていた。

 屋根裏部屋も覚悟していたから何とも厚遇になっている。

 その点ではハーパーさんは仕事が早い。もちろん渋々何だろうが。

 アーデンもまたこの3階にあるプライベートルームの一室が宛がわれていた。

 公爵家の一員という扱いを示すために表面上のことなのだろうが本当に抜かりがない。

 が、いくら取り繕うともカーティスはもう全てを知っている。誤魔化せはしないのだから。


「お気を使わせてしまい申し訳ありません。お心遣いありがとうございました」


 宣言された以上は前に進むしかない。用件は済んだようなので丁寧にカーテシーを行ない、部屋を退室する。

 すると扉の前には佇んでいるアーデンが居た。


「セシリア、話がある」


「私もアーデンとお話したいと思っていました。ですが、少し部屋で待っていただけますか? あとでお伺いします。荷物を運んでおきたいので」


 部屋が用意された今、別館に隠している荷物を運んでおく必要があった。 


「わかった。手伝う」


 アーデンは部屋に戻るどころか私の後を付いてきた。どちらにしても急ぐ必要がある。

 これから就寝準備を手伝わないといけないし、ながら作業で話すことではない。

 大事なことだからこそしっかりと話す時間を確保しなければならない。

 あまり遅くなってしまうと全てがずれ込んでしまう。だから引き留めることを断念した。

 ランプ片手に裏階段を使い、調理場を探ってみると後片付けで忙しそうにしている様子。

 おそらく今、貴族侍女たちは食事を終えたようでもう少し経てば入浴する頃になるだろう。

 別館に繋がる廊下で様子を窺いつつ、ひと気がないのを確認して屋根裏近くの階段へと急ぐ。

 置いたままの荷物は誰にも触られることなく見事にそのまま存在する。

 それを掴もうとするとアーデンが手を伸ばした。持たせる気がないようである。

 仕方なくその状態で来た道を戻ろうとすると廊下の先で声がした。

 ちょうど貴族侍女たちが別館へ戻ったようでその場で立ち話をしているらしく留まる羽目になった。

 こんなことで足止めを食うとは思いもしない。話す時間の確保が難しくなってくる。

 再び階段下に戻ると何気に屋根裏部屋の方を見てしまう。アーデンも同じように見ていた。

 すると今はどうなっているのかと気になり始め、ここで立ち止まっていても、と何となく見に行く流れになる。

 数年ぶりに訪れた薄暗い屋根裏部屋は随分と埃が積もっているようだった。

 私があの日出て行ったきりまま放置されていたのだろう。踏み入った形跡すらない。

 配置はそのままでもきちんと片付けて去ったからすっきりとはしていた。


「懐かしいな」


 アーデンが呟いた。手元にある明かりだけが照らす中、その面影を辿っていく。

 歩くたびに小さな埃が舞うがここで生活していた痕跡は残っている。 

 押し込まれていたベッド、引っ張り出したテーブルやイス。

 あの頃、一生懸命生き延びようとした形跡だ。本当に懐かしい。

 ほんの数年前まではこの場所でアーデンと暮らしていたと思うと信じられない。

 今ではもうあのベッドでは二人で横になることができないぐらい成長したアーデン。

 頑張ってきて良かったとしみじみと改めて感じた。

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