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予想通り、本館2階にある食堂室はてんやわんやしていた。
公爵家一同が揃っての食事となるわけだから粗相があってはならないと重要な仕事。
ステラさんからの指示で慣れてないであろう貴族令嬢二人があたふたと支度していた。
相変わらず自分は動かず人を動かすのが得意のようだ。
そこへ素早く紛れ込み、手際よくカトラリーなどを確認。
綺麗に磨かれたはずのナイフが指紋で曇っていたものは綺麗にふき取ったりした。
その様子をポカンと見つめられ、慌てたようにステラさんは声を上げた。
「か、勝手に何やってるのよ!」
「私は侍女としてこちらへ来てます。お手伝いするのは当たり前でしょう。只でさえ、時間が下がっているのに手こずっていては公爵家の方々に失礼にあたります!」
ドンと構えて強気で言い切るとステラさんはグッと堪えた。時間がないのは事実。
次にささっと動いて今度は調理場へと向かう。
そこでは料理人に驚かれつつも彼の手順を知ってる私は作業工程に手を出した。
次から次へと盛り付けられた料理を並べ、仕上がりを確認する。
相変わらず提供する料理だけは上手いらしい。私たちに出し惜しみしていた差がホントに激しいと感じた。
そうこうする内にそれを運ぶであろうまた別の貴族令嬢二人とデリアさんがやってきて唖然としている。
「こちらは問題ありませんので気を付けてお運びください」
そんな彼女らに発破をかけるように声をかけると身体は次の作業へと動き出す。
この感じ、懐かしいなどと浸っている暇はない。後でコテンパンに言われるのは判っている。
先回りして回避するに限る。ある程度目途がついたら姿をくらまそう。
頭で計算しながら引き際を探っていた時、
「セシリア! こ、公爵様がお呼びだよ!」
怒気をはらんだ口調のハーパーさんが調理室に飛び込んで来て大声を上げた。
こんな時にカーティスの呼び出し、何だか嫌な予感がする。
「信じられないね。一堂の会する場に下民を呼び出すなんて」
先行くハーパーさんがぶつぶつ言いながら私を誘導していた。
「それに随分と余計なことをしてくれたそうじゃないか! 後で憶えておくがいいさ」
ギロリと睨みを利かせながら足早に歩くハーパーさんを追いかけるとあっという間に食堂室へと到着。
「カーティス様、お待たせしました」
さっきとは打って変わって上品な微笑みを浮かべながらハーパーさんが室内へと入っていく。
続けて私も入室するとそこには公爵家の面々がズラリ。
長テーブルの先端にはカーティスが座り、その両端にはエリオットとブランディンが向かい合っていて、ブランディンの隣にはアーデンが。
アーデンと向かい合う形でフロンテ領の管理人も着座している。
給仕にはステラさんとデリアさんが立ち合っていて他の貴族令嬢たちは完全に運搬係として扱われていた。
食事はメインが終わったというところで一区切りついているようだった。
ペース的にはちょっと早い感じ。多分、あまり会話がなかったのかもしれない。
そういう状況の中、私が訪れることになったのだ。本当に嫌な予感しかない。
「食事の途中だが……」
カーティスがちらりと私の方を見た後、横に来るよう合図する。
これはもう覚悟するしかないようだと悟った。
現公爵らしく威厳をもってゆっくりと立ち上がると私と並びながら声を上げた。
「皆に大事な話がある」
一同が揃う中、場違いな私に胡乱気な視線が射るように突き刺さる。
そんな中、アーデンだけが不安そうにこちらを見つめていた。
「私ことカーティス・グリフィスはこのセシリアと婚姻を結ぶことにした!」
シン……と静まり返った後、ガタンと大きな音を立てブランディンが立ち上がる。
「何を言っておられるのですか? 兄上!」
「近々婚約発表し、年内には婚姻を結ぶ予定だ。そこで現公爵としてセシリアを今後は私の婚約者として扱うよう命令する!」
有無を言わさずカーティスは宣言した。




