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 私の体力は限界だったらしい。

 カーティスの姿を見た瞬間、その場にへたり込んでしまった。


「……も、申し訳ありません」


 声すら掠れたヘロヘロの状態で手を貸してもらって何とか立ち上がる。

 そのまま馬車に乗せてもらい、近隣の領地へと一緒に向かうことになった。

 カーティスは仕事が押したため、予定よりも遅い時間の移動となったらしい。

 私は朦朧としながらもカーティスにこれまでの状況をポツリポツリと話した。

 

「アーデンが心配しているだろうから伝書はしておいた。今夜はこちらで世話になろう」


 領主に申し出て急遽宿泊することになる。

 これも私を拾ったことで予定が狂ったのだろう。急いでいたはずなのに申し訳なく思う。

 それに突然の訪問でも快く引き受けてくださったようで私までも立派な客室を用意してもらった。

 さらには湯浴みまで準備してくださり、有難く入った後、一同で夕食をとることになっていた。

 ところが食事していたはずなのに疲労からうつらうつらという状態になり、気づいたらベッドで寝かされていた。

 なんて失態を犯したのだろう。食事もままならずに眠ってしまったとは。

 物音しない屋敷内は真っ暗で今はおそらく夜中なのだろう。

 小さな明かりだけが残っていて気遣ってなのかサイドテーブルには水差しとフルーツが置いてあった。

 見た途端、お腹が空いたと感じ、それを摘まみながら空腹を満たす。

 無意識だったのに何なのか勝手に涙が溢れ出してきた。

 次から次へと止まらない雫が頬を伝ってくる。

 不意に前世の記憶が過ぎる。家族全員が離れ離れ、一人ぼっちになった喪失感。

 母は出ていき、壊れた弟は父を刺して逃亡し、父は重傷で入院。

 家族で住んだ家は私一人となってしまい、誰かが戻ってくるのをひたすら待った。

 結局、誰も戻らない家を私も出て行ったという悲愴感。どうしようもない孤独感。

 今回カーティスと出会ってなければどうなっていただろう。

 もしかすると道の上で倒れていたのかもしれない。

 そう思うと怖かった。また、一人取り残されたのち、死んでしまうのかもしれないと。

 あの時、ブランディンと出会った時点で嫌な予感がしたがどうしようもなかった。

 同行を拒否する理由などなく、従うしかなかったからだ。

 アーデンばかりに気を取られていて自分のことが疎かになっていたのも悪かった。

 常にブランディンのそばにいる存在は全て彼の味方なのだから。

 私はただの何の権限もないしがない下女なのだ。しかももう爵位の無いただの平民。

 只でさえ疎まれているからどんな扱いをされても仕方のない立場でもある。

 そんなことはちゃんと分かってはいた。だから必死で戦ってきた。

 だけどそれは屋敷内で通用したことだっただけ。

 こうして外部に出れば周囲の悪意に対しては対応できないと思い知った。

 それが悔しいし、不甲斐ない自分が情けなかった。

 あれだけアーデンを幸せにすると啖呵を切っていたのにこのざまなのだから。

 井の中の蛙……とは私のことを指すのだろう。

 日頃どれだけカーティスが手を焼いているのかも実感できた。

 醜聞が広がっていて横やりを入れる貴族もいるだろうし、ブランディン寄りの重圧を抑え込む大変さもあることだろう。

 いつも顔色が悪いのは仕事だけの苦労ではないのだと察した。

 『静養を兼ねて国外で隠居生活を送ろうと考えていた』と語ったカーティスの言葉が過ぎる。

 身体の弱かったカーティスにとって限界も近づいているのだろう。

 公爵家に踏み止まってブランディンと敵対してまでは体力が持たないのかもしれない。

 だからアーデンの父親として守るために最善を尽くそうとしているのだ。

 今の私には何の力もない。だからこそ、私も最善を尽くす必要がある。

 やっとわかった気がした。今、どうすればいいのか。伝えるべき返事のために朝を待った。


「カーティス様、お話があります」


 私は決断を下し、返答した。

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