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馬を走らせること半日。違う領地へ辿り着くも領主から門前払いを受けることに。
一応はグリフィス領と友好と謳っていた間柄の伯爵家のはずだったがアーデンの名を出すや否や態度を豹変させたのだ。
先ぶれなしに行き当たりばったりなところもあったから無理もないが、礼儀として挨拶だけはしておかないとあとでどうなるか分からないということもあってとりあえずといったところだった。
ここでもアーデンの醜聞は広がっているらしく、何とも言えない空気。
特段、お世話になるつもりはなかったから気にする必要も無く、領地内の宿を取らせてもらうだけ。
「アーデン、疲れてませんか?」
さすがに馬に乗りっ放しで足や腰にきてしまった私は疲れていた。
「大丈夫、平気だ」
15歳の少年らしく元気そう。でも明日も同じように乗馬するのだから休息は早めに取っておかなければ。
「そうですか。では特に何もなければ私はこれでお暇してもよろしいでしょうか?」
「構わない」
色よい返事をいただけたので部屋を出ようとするとアーデンが付いてくる。
「あの、アーデン?」
「部屋まで送る」
隣なのに? と驚いたものの、これも紳士教育のエスコートの賜物かと納得した。
部屋を出てほんの数メートルの距離。なのに疲労から突然足の力が抜け、ガクンと背後に倒れそうになる。
尻もちをついてしまうと思った矢先、がっしりと腰を掴む腕。アーデンから支えられ事なきを得る。
「おやすみ、セシリア」
ドアの前で何事もなかったかのように優しい眼差しのアーデン。
何だこの、変な感覚は。思いがけない紳士的振る舞いに戸惑ってしまう。
学園生活が始まって接することが少なくなったせいか急に大人びたような感じがする。
こんな風に学園でも過ごしているのであればきっと醜聞も払しょくされるはずなのに。
ブランディンの力が強いことを思い知らされる日でもあった。
翌日も同じように相乗りで出発した。
距離も稼いで多少の余裕もできそうな気配がしていたその途中でブランディンの馬車と遭遇してしまった。
ただそのまま通過するわけにもいかず、御者だけにでも頭を下げてやり過ごすつもりだった。
ところが止められてなんと同行することになってしまったのだ!
馬を預けた後、アーデンはブランディンから相乗りを許され、断れずに同じ馬車内で座ることに。
当然私は同じようにするわけにもいかず、御者台から睨まれながら、
「お前のような下女が入れるわけないだろう。同乗できるだけありがたく思うんだな」
と詰った御者の横へと座った。
有り得ないブランディンの行いに対して嫌な予感しか過ぎらない。
車内での二人がどうなっているのかハラハラしながらもその行程は平穏に見えたがついに休憩地点で懸念していたことが起きてしまった。
しまった!! 違う形でやられたのだ。気が付けば馬車は出発していて私一人が置き去りにされていた。
出発前に突然、おつかいと称されて受け取りに行くよう御者に言付けられたから。
その時既にアーデンは乗車していてそのことに気づいていない。
おつかい自体が嘘であり、私は身一つと僅かなお金すら持たないまま取り残されている。
いつまでもこの地に留まる訳にもいれず伝手もなく仕方がないので少しでも先へと歩くことにした。
その内どこかで荷馬車に出くわすだろうと安易に考えてしまったのがいけなかった。
すれ違うものは全て元来た道を戻るものばかりで途方に暮れてしまうことに。
陽が傾き始め、夕刻に近づいている。
まだ早いがこのまま徒歩では危険を伴うため、どこかで安全を確保できるような民家などで休ませてもらうしかないと判断せざるを得なかった。
歩けどそんな場所はなかなか見えず、疲労も蓄積され、足腰にもきており、万全でない状態でふらつく歩行。
そんな状況下で私のそばを通り過ぎた一台の馬車が止まる。
「こんなところで何をしている」
手を差し伸べてきたのはカーティスだった。




