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「セシリア、気を付けて行きなさい」
とうとう恒例休暇の出発の日がやってきた。
何か別のことを言いたげなお父さまがわざわざ私に合わせてタウンハウス前までお見送りをしてくれた。
「はい、ありがとうございます。お父さま」
ここ最近、例の件で日に日に悩んでいく私を気にかけていたためだろう。
その悩みを打ち明けてくれる機会を探っている内に今日まで来たのだと思う。
両親は無理矢理聞き出そうとしない。私の意思を尊重してくれるからだ。
だから私が何も言わずにいれば結局そのままやり過ごしてくれる。
もちろん打ち明けたのならばしっかりと相談に乗ってくれるような二人である。
お父さまは何とも名残惜しそうな表情で職場へと向かって行った。
私がずっと思い悩んでいた姿が顕著だったのは認める。
だけどこれは相談できることではない。
不確定な未来の話であれば私の婚姻に関することなので相談はできるものの、予知ともいえる未来での状況を説明してからの相談なんて出来るわけがない。
それどころか仕事のし過ぎではと疲れを心配される事案になりそうだ。
実を言えば未だに判断が出せていないのも事実。
何だかんだと今までカーティスとは会うことなく返事をしなければならない立場としてはホッとしていた。
結局、都合上グリフィス領からはエリオットもカーティスとも別々の出発で来るようになったらしい。
この分であればフロンテ領で会う時がその機会になるのだろう。
タウンハウスからアーデンと私の出発は今からだが、既にブランディンは二日前には旅立っていた。
今回、太陽姫は不参加扱いになっている。
まあ、昨年は訪れているし、アーデンもいるから誘わなかったのだと思う。
ともかく現地到着日を合わせるため、時間はバラバラだが公爵家一同がフロンテ領に勢ぞろいする。
私にとってももう3年ぶりとなる場所。
あまりハーパーさんたちと顔を合わせたくないものの、これは仕方がない。
アーデンの専属侍女として特別に同行が許されている立場なのだから。
「えっ? 交代の御者がいないのですか?」
出発して二日。突然中継地点である領地で管理人からそう伝えられる。
これまで予定通りの行程を経て順調な旅路だった。
ここでは馬車を乗り換えてそのまま出発する手筈となっていた。
ブランディンよりも遅くに出発しているので到着日を合わせるために少し急ぐ必要がある。
だからここでは宿泊せずにそのまま先へ進めばいいだけの話だった。
しかも私たちの乗ってきた馬車の御者は荷物を積み替えるとさっさと領地を去っている。
代わりの御者を用意するには明日以降となるらしい。
……これはまさしく嫌がらせなのかもしれない。故意に到着を遅らせるための。
明日出発でも強行突破をすれば間に合うが御者が明日来る保証はほぼ無いに等しい。
下手をすれば到着日には辿り着けない可能性の方が高い。
こうなれば領民の中で御者の代わりを探し出すしかない。
そう提案するものの、公爵家の品位に関わる問題と管理人は絶対に首を縦に振らなかった。
「セシリア、手を」
気が付けばアーデンが荷物を括りつけた馬に跨っていた。
私が試行錯誤している間にいつの間にかアーデンが手配したのだろう。
言われるがまま手を差し出すとアーデンの前方へと跨る形となる。
視野が高くなり、不安定さがあるものの、馬に乗っているという高揚感が増してくる。
馬の世話をしている時は触ることすら許可されなかったからすごく嬉しい。
前々から羨ましく感じていたことが叶えられた気持ちになった。
こんな形で馬に乗ることになると思いもしなかったがこれなら御者は必要にない。
このまま出発すればきっと間に合わせることができるはずだ。
「出発する」
アーデンは私を覆うようにして手綱を掴むと馬を歩かせ始める。
背後からアーデンの振動が伝わってくる。
以前は私が包み込めていたのに逆になった立場で妙に背中が熱く感じた。




