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学園生活が始まった慌ただしい日々を思い起こす。
朝送り出した後は徹底的に掃除に明け暮れ、衣食住に嫌がらせが無いようチェックする。
例えば洗濯された衣類やティーセットの破損など細かいところに至るまで。
ブランディンがいない隙の忖度嫌がらせ回避のためにも欠かせない。
そうやって侍女長のような細かな確認をすることで不備は目にみえて無くなっていった。
影を潜めつつもやることはしっかりとやる。私が帰宅した後の味方はいないのだから。
アーデンは学園での出来事をあまり話さないので様子が判らないがマーデリンとは会ったらしい。
お礼は伝えてあると聞いたから二人で会話する時間があったのだろうと思う。
小説通りの流れを組んでいて親交が始まっているのだと感じた。
それと同時にアーデンはしっかりと学んでいるようだった。
帰宅時間がナット様の勤務終了時に合わせて相乗りさせてもらっているため少し遅い。
待ち合わせの時間までは学園内に留まって自主学習を行なっているため、帰宅後すぐ食事できるように準備している。
そのルーティンを効率よくするために試行錯誤してようやく定まってきた。
あまり遅いと王都とはいえ、帰りを心配するお父さまが出直して迎えに来てしまう。
以前のように待ち合わせて帰れるようになれば問題ないからと調整に調整を重ねて多少待たせるものの実現できるようになっていった。
そんなこんなで気を張る日々が落ち着くと恒例休暇まであまり日にちがないことに気付く。
移動期間も含めればもう2週間もない。
今までこの時期は休暇が始まるから準備をしなければと体感的に分かっていたはずなのにすっ飛んでしまっていた。
それだけピリピリと緊張した時間を過ごしてたんだと改めて思う。
そんな折、お父さまの言葉で片隅に追いやっていたカーティスとの婚姻について向き合うことになる。
私はアーデンにとって幼少期からの育ての親のようなものだと思われていて今は専属侍女として雇われている。
けれどアーデンを保護し続けていた私の存在は公爵家のブランディン至上主義の故夫人支持派にとっては対立すべき相手で反発することもあるせいか最悪な印象を持たれている。
私欲まみれの悪女としてアーデンから離れない金目当ての下女として認識されているといってもいいかもしれない。
現に今も陰ながら細かなことに口出しをしているから傍若無人に振舞って逆らっているように映ってるだろう。
実際は全く違うのだが悪い印象を持った人間をそう簡単に色眼鏡を外してみることはできない。
だからカーティスは今までのことを鑑みて最善だという方法を導き出したのだ。
それが私との婚姻。そこまで至った経緯を考えれば簡単に想像がついた。
来年、ブランディンが公爵を継げばおそらく私は即刻クビになるだろう。
アーデンにとって必要でも公爵家にとっては必要ないと新公爵が判断すれば決断は下されるから。
もちろん後々アーデンも追い出す腹積もりもあるだろうから布石の一つとして。
学園入学を決めてしまった今ではそう簡単に手を出せなくなったが、自身の卒業後はどうにでもできる。
ブランディンならアーデンが在学中に不祥事を仕掛け、卒業できないようにするのもままならないだろう。
その前に排除できるものは排除する。それが彼のやり方だからだ。
それが予想できたからこそカーティスは決断したのだろうと思う。
影ながらアーデンの父親として守るため出来ることを考え抜き、望むことを叶えようとしている。
カーティスと私が結婚すれば夫婦として認められるため、簡単に追い出すことはできない。
アーデンから物理的に引き離すことができない理由としてそばにいられるという公認事項。
そもそもそれはブランディンの公爵が決定してる前提での話なのだ。
でも小説では異なる。ブランディンが公爵になることはないのだから。
それを証明できない今は何とも返答し辛いことに直面している。




