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 ――アーデンの父親が、カーティス?


 驚愕の言葉に私は息を呑む。

 小説ではアーデンの父親はエリオットとされていた。

 ブランディン生誕の宴の夜、アーデンの母であるルイーザが襲われ、その相手がはっきりしなかった。

 アーデンが誕生してその瞳がグリフィス公爵家の証であると判明しエリオットも否定せず、そのせいでヴァネッサとの間に亀裂が入ってしまったのだから。

 

「アーデン様の父親はエリオット様だと訊いております」


「ああ、表向きはそうだった、だが……」


 そう言って頭を手で押さえながらカーティスは回想を語り始めた。



 あれは私が15歳でブランディンの生誕を祝う宴のこと。

 誕生を喜ぶ母が将来の公爵として周囲へ認識させるためだけに開かれたものといえる。

 その頃私は王都で学園入学のための調整教育を受けていたから領地へ赴き、公爵家の一員としてその宴に参加し、翌日には再び戻る予定で一晩を過ごすだけのはずだった。

 あまり長くいても母は私のことはさほど興味がないようだったのもある。

 元々健康を不安視された存在だったから公爵家でもどこか不安定な扱いで生活を送っていたものだ。

 父は領地を飛び回っていたし、母は祖母と対立ばかりで中途半端な私自身も浮いていた。

 祖母からは後継の才能はあると認めてはくれていたが身体の方で不安はぬぐい切れなかったようだ。

 体力をつけるために必死で努力はしたけれど望むような健康体には程遠く、子を成すことができない可能性が高いと診断され、不甲斐なさに婚約すらしたくなかった。

 ブランディンが産まれてからも母にとって彼が爵位を継ぐまでもてばいいだけの存在と思っている程度だろうと感じた。

 その分父は私のために寄り添ってくれたが忙しかったこともあり、接する機会が少なく、孤独だった。

 ずっと先行き不安のある将来などに期待せず、役目さえ果たせればいいと感情を押し殺して生きてきた。

 ただ長男として公爵家の体面を保つため、学園入学することだけを目標に繕っていたようなものだ。

 それなのにあの情熱的な舞を目にしてから信じられないほどに心を奪われてしまった。

 艶やかな黒髪を靡かせ、褐色の肌とルビー色の妖艶な瞳を輝かせた魅惑的な女性、ルイーザ。

 どうしようもなく彼女に惹かれ、気が付けばずっと目で追っていた。

 催しも一区切りつき、夜になり役目を終えた旅芸人たちも交え無礼講と称した酒宴の席へと流れ、彼女も参加していたが宿泊客の男性に絡まれていてしきりに酒をすすめられていた。

 グラスを持ったまま彼女は困っている様子で私はそこに割って入りグラスを奪い退出を促した。

 その迎合だけで十分だった。だが誘惑に勝てず奪ったグラスに彼女の口紅の跡が残っていたのを目にし、不埒にもその飲み残しをつい口にしてしまった。

 しばらくして部屋に戻ると身体に異変が起こった。全身が火照るようでおかしいと感じ、やがて媚薬だと悟った。

 もしかすると彼女が先程のゲストに襲われているのではと不安になり、急いで部屋へと向かった。

 ただ無事を確かめるだけのはずだったのだ。なのに横たわる彼女を見つめるうちに……。

 自分でも失態を犯してしまったと後悔した。自室に戻り、父に報告すべきと朝を待つことにしたのだ。

 ところが非力な私は高熱に侵され倒れてしまい、数日寝込むことになった。

 熱が下がった頃には王都へ戻ることになったがおかしなことに醜聞といえる出来事は全く耳にしなかった。

 結局父に会えることなく、学園入学を迎え、その話題すら上がらず時だけが過ぎてしまった。

 恥ずかしい話だがアーデンの存在を知ったのはルイーザが亡くなった後だ。

 母がその母子の存在すらないものだと私に隠し続けていたと知ったよ。

 のちに父だけに私は打ち明けた。父もどことなく気づいていたようだが私を守ってくれていたのだ。

 そんな父の理想を叶えたいと公爵家を守るため必死に働き始めたという訳だ。

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