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 カーティスは気づいてしまったんだ、ブランディンのこと!

 彼の言う違和感。ブランディンから虐げられている状況やアーデンに対して異常な扱いでの生活を。


「そこで父にも相談して領地で引き取ることにした。でもまさかここにも手が回っていることには気づけず、母の力がまだ残っているとは思いもしない。アーデンには随分窮屈な思いをさせていたのだと知ったよ」


 アメジストの瞳が影を落としたが、再び私を見据える。


「君たちは何も言わないがボルトから断片を聞いている。おそらくフロンテ領からずっとそうだったのだろうと想像がついた。……思えばあの頃、君も不自然に頬がこけていた。他の侍女たちはそれなりの面相だったのに。おかしいと思ったのだ。傍若無人で振舞っているのなら欲深くなるはずなのに。……それに私は病弱だったために食が細くて苦労したから身を持って知っている。痩せる原因として食べたくても食べられないから細かったのだと。が、年明けの報告でこの領地内でもアーデンに食事が運ばれなかったことを知り、君たちはそうではないとようやく判ったのだ。そもそも食べたくても食べさせてもらえなかったのだと。長い間私の目が行き届かず、本当に申し訳なかった」


「い、いえ。頭を上げてください、カーティス様。私は大したことをしておりません」


「さらにはフロンテ領の頃から君の存在を知りながら今頃、君がアーデンを守っていたのかと気づいたのだ。だから礼を言う。セシリア、今までアーデンを助けてくれて大変感謝している。君が居なければアーデンはどうなっていたのか分からない」


「いえ、私は侍女としてフロンテ領では給金目的で居座っていたようなものですし、むしろ王都では王女殿下の手助けとボルト様の協力で成り立ったようなものです! ただ私はアーデン様の幸せだけを願ってましたので今の現状を逆に感謝しているのですよ。カーティス様の助力もあってこその今があったのですね。ありがとうございます」


 本来なら関わらなくても自力でアーデンは生き延びていた。私はただ小説を知っていただけのこと。

 それに小説とは関係なく、あの頃の私はこの世界で貴族としてできることしか考えてなかった。

 けれど人として目の当たりの出来事に見て見ぬ振りができなかった。

 何故なら前世での私は家族に対して何もできなかったことを悔いていたからだ。

 母が一人で逃げ出すような状況にしたことも弟を守ることすらできずに結局は一人ぼっちになってしまった。

 その喪失感がずっと魂に刻み込まれたままこの世界に転生したのかもしれない。

 だからこそこの世界で家族の危機が訪れた時にすんなりと自分ができることを選択した。

 領民たちを守るため、両親の負担を減らすためと普通の貴族令嬢としてはできない判断。

 働くことで給金を得、貴族として責務を果たしながら無意識に満たされていく空虚感。

 気づかないうちに今度こそはと藻掻いていたのかもしれない。

 そんな中でのアーデンとの出会いでさらにどうにかしなければと動いてしまった。

 マーデリンとアーデンは真実の愛で結ばれるという結末は知っているのものの、その展開まではとても悲惨なものだ。

 それに関わってしまった以上はアーデンを幸せにしたいと思ったのだ。

 これは多分自己満足のためなのだろう。きっと前世での悔いを解消するための。

 現に私が動いても何もできていない。小説の展開が本筋通りで勝手に進んでいる。

 きっと私が何をしようと小説の展開には何の影響もない存在なのだろう。

 こうしてカーティスと話すことも物語には何も関係のない出来事の一部なのだろうから。


「やはり君は本当にアーデンのことを大切にしてくれているのだな。見極めに時間がかかったが、君は信頼に値する。ようやく私の願いを共有できる人物に出会えたようだ。君の協力が必要だから訊いてほしい」


 俯きながら語り始めたカーティスの話に驚かされるのはのちの出来事になる。

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