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「以前から謝罪しようと思っていた。セシリア、私は長い間君を誤解していたようですまなかった」
予期もしないカーティスからの突然の謝罪に驚く。何のことだかさっぱりわからない。
「私はこれまで公爵家のために尽力してきたつもりだった。公爵を継承してからも所有する領地の報告をこまめに確認し、現地で不正がないか赴いていたはずだった。だがアーデンに関しては見抜けずじまいだった。憶えているだろうか、過去に私と初めて対面したときのことを」
「はい、憶えております。私が強引に寝室から追いやり、侵入を塞いだ時のことですよね?」
「そうだ。それから毎年、アーデンに接触しようと試みたが叶わなかった。結局何年も王都に戻るまで会えずじまいだ。もちろんその頃から様々な報告は受けていた。だからその真意を確認するために動いていたのだが……」
ちらりと私の方を見つめ、ため息をつく。想像がつく、きっとよくない報告ばかりだったのだろうな。
あの頃もアーデンを会わせまいと必死だったし、何せ私は悪役侍女としてアーデンのそばにいたらしいから。
でもまさかカーティスがそんな風に気にかけていたとは知らなかった。
「ようやく対面できた時は驚いた。報告によるとフロンテ領では好き放題し、逆らってばかりの生活を送っていたとあり、まさかそこまではと疑っていたが会えば本当にむさくるしい姿で粗雑さが目立っていた。だが、公爵家の一員として立て直す必要があった。身なりを整え、手配して王都で貴族教育を始めても拒否を繰り返す。さすがに判断をしなければと休暇で数カ月ぶりに対面した時、初めてアーデンが私に頼みごとをしたのだ」
アメジストの瞳がじっと私を映し出して思わず息を呑む。
「セシリアを専属侍女にしてほしい。それだけでこれから降りかかる出来事も受け止めどんな試練でも耐えると、偽りのない瞳でそう誓ったのだ」
エリオットが言っていたアーデンとカーティスの誓いはこれだったんだ!
私がフロンテ領を去った後、休暇で訪れた時不在に気づき、私を心配して……。
アーデンだけがあの現場を知っていたから察して私の待遇を気にしてわざわざ雇ってくれたんだ!
「が、セシリア・フェルトンという貴族令嬢は既に存在はなく、捜したよ。ようやく君を専属侍女として仕えさせたものの、状況は変わらずじまいでますます良くない報告が上がるようになっていた。私も報告を鵜呑みせざるを得ず、このままでは公爵家の体裁が損なわれてしまう段階まで陥り、グリフィスの名をもとに入学ができないようであればアーデンの立場はないと。排斥の話が頻繁に出始め、その対応に追われていた時、王女と話す機会があり、……そこで初めてアーデンの現状を知り、衝撃を受けた」
アーデンの排斥、って随分危ういところまできていたのか。ブランディンの妨害も並じゃなかった。
そしてマーデリンが気にかけてくれたからこそのカーティスの耳に届いたってことか!
やっぱり太陽姫の存在は重要な役割を果たしている! 小説の裏側恐るべし。
「私は何かずっと引っ掛かっていたのだ。かつて幼いアーデンを一瞬見た時、ふと違和感を覚えた。それから全く接触できずに結局は色眼鏡で判断せざるを得なかったが、久しぶりの対面で報告と嚙み合ってないと直感的に思った。もちろん粗雑さは目立っていたが一切教育を受けていないはずなのに何故だか不自然にマナーが身についていたことが不思議だったのだ。しかも痩せていて食の細かった幼い頃の私のように思えた。フロンテ領では選り好みの偏食だったと訊いていたが、食卓に上がったものは好き嫌いなく食していたのを確認している。細やかな違和感はずっとあったが判らなかった。……それが王女との会話で定まってしまった」
カーティスは小さくため息をつく。顔色が良くない。
「まさか、ブランディンがここまで手を回しているとは思わなかった……」




