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「……今年はフロンテ領への休暇は正式に不参加ということですか?」
そろそろだと肌で感じ始めてしまう職業病とも思えるこの季節。
ブランディンと離れてることだし、領地にいるし、今度こそは強制参加も免れないだろうと心構えしていた。
「はい。旦那様からそう承っておりますので」
突然ジョセフさんから直接私に伝達があった。
公爵家の休暇は恒例行事。例え対面せずとも同行したという体裁が必要なはず。
直接的な嫌がらせもなく参加できたはずなのに何故現当主であるカーティスが拒否するのか分からない。
特に今年は汚名挽回としてアーデンの参加が必須だと思えたのに、何故。
これはグリフィス公爵家として存在を否定しているとみなされてるのか?
そう不安を掻き立てられたものの、伝令でフロンテ領には不参加だが別の場所へは滞在とのこと。
出発は同日。といっても本来のフロンテ領までは行程がかかるので移動分を考えてると余裕をもって休暇前には旅立つことになるのだが。
とりあえず行き先も判らず当日馬車に乗って連れられた場所は割と近場であった見知らぬお屋敷。
私もアーデンも顔を見合わせ、意を決して訪ねてみれば王都にあるボルト様のタウンハウスだったことが判明した。
そんな肝心のボルト様はなんとフロンテ領へ!
今回の休暇には下検分も兼ねた婚約者マーデリンが同行したためだった。
護衛騎士であるから当たり前のことだけどもアーデンを不参加にさせられた理由も判った気がした。
おそらくブランディンきっての要望なのだろうな、と。
このタウンハウスは主に二男の兄であるナット様という方が管理しているらしく、文官としてボルト様と同じく王宮に仕えているようだ。
弟からこの機会にと要請されたから協力していると快く迎え入れられた。
もちろん貴族教育に他ならない。なんて素晴らしい騎士様なのだろうか。
ここに滞在しながら専門の教師の方々から指導をされるという願ってもないこと。
休暇から戻るまでには半月以上を要するため、この期間アーデンは上質な貴族教育をみっちりと受けられる。
もし参加していたら引き篭もっていたであろう休暇を過ごすよりもこのような充実した時間を設けてくれた方が感謝しかない。
ナット様、ボルト様、そして他ならぬマーデリン様! と天を仰ぐ。
それに加え伝令として現公爵、カーティスが一枚噛んであることも不思議に思った。
訪ねた早々に時間が勿体ないとばかりに休む間もなく、指導が始まった。
時間ごとに専門教師が紹介され、どんどん始業していく。
起きてから寝るまで頭から足先までと礼儀作法、マナー、所作など基礎の基礎を叩き込まれていった。
中途半端に身に付いていたことががっちりと固められ、日に日に磨かれていくアーデン。
見事に鬼の居ぬ間に……の、貴族教育が受けられている現状に驚くばかり。
スポンジが水を吸うようにアーデンがしっかりと習得していく様。
この光景に何故かものすごく既視感を覚えてしまう。
私はサポート役と称しつつも何もせずにただただ部屋に付いているだけだった。
が、そこにいて教育を受けているのを確認するのが当たり前かのような感覚。
メキメキと成長する姿を当然のように見守るという立場の存在感。
粗雑に扱われていたアーデンがようやく貴族としてスタートラインに立った様を感慨深く思ってしまう。
目の当たりにしながらも初めてのように感じてしまうのは何故だろう。
今まで侍女として何度も成長を感じるこの瞬間があったはずなのに。
きっと小説で読んでいた部分が具象化された感覚なのかもしれないと思うことにした。
ともかく文章上にない背景でこうしてアーデンは貴族教育をしっかりと身に付けたに違いない。
それもこれもボルト様が手配し、きっかけは元々気遣ってくれたマーデリンの支えだ。
要はちゃんと物語は組み込まれていて小説通り太陽姫の関わりという流れがあったということだ。




