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 お仕事も軌道に乗り、単調な毎日を過ごす中、屋敷の方は着々と整っていった。

 フロンテ領に来てから3週間目も終わりを迎え、侍女の心得としての指南終了と夫人が卒業を示唆した。

 立派な役目が果たせる基本が身についているので自信を持って務めるようにとお墨付きで。

 ちょうど花の季節が終わり、木々が生い茂ってくる初夏の始めに移り変わる頃となって、ついに色めき立つ出来事が訪れる。

 なんと、翌々週、公爵家の方々の御来訪という連絡がお屋敷に入ったのだ。

 順番でいけばちょうど別荘班に当て嵌まる。

 誉れ高い噂は耳にしていたものの、残念ながらそのご尊顔を拝めずに生活してきた。

 早い話、社交の場に出ることも出来なかったせいでもあるので仕方がない。

 フロンテ領配属侍女の5人は伯爵令嬢たちでお目にかかったことがあると自慢気に語られた。

 親子共々、ハニーブロンドの髪に見目麗しい顔立ちで公爵家特有のアメジストのような瞳が宝石みたいでものすごく素敵らしい。

 現公爵は奥様を亡くしていて、次期公爵と名高いご令息には婚約者がいないとのこと。

 二人とも王都や領地を飛び回って忙しいようなのでこの休暇でゆっくりと寛いでいただければと伯爵令嬢たちは顔を見合わせながら意味深に微笑んでいた。

 まあ、そのための休暇だろうし、担当だったら元々言われなくてもそのつもりで働くよね?

 とりあえず御来訪一週間前となり、別館班に当たる私たちも駆り出されるほどの準備が始まった。

 屋敷では絵画や壺などの美術品や調度品の設置が行われていた。

 部屋がガランとして殺風景と思ってたのは美術品がなかったからだと把握した。

 そうだよね、滞在1週間だからそれ以外の時は盗まれないように大事に保管しといた方が安全かもしれない。

 そんな準備を手伝いつつ、別館のこともしてたからものすごく忙しかった。

 神経がすり減らされるのかってぐらい気合いが入ってて侍女長はピリピリしてたし。

 完璧なおもてなしをするためにとかで塵一つ落とすことが許されないと毎日徹底的に磨いた。

 毎日マイペースで仕事していた時間が嘘みたいに思える準備期間だった。



「悪いんだけどフェルトンさん、来週、別館と当番、代わっていただけないかしら」


 週末、部屋で寛いでいたら一人の伯爵令嬢が突然訪れた。

 もう一つの班の方でほとんど接点がなく、顔見知り程度の存在。

 来週といえば例の公爵家御一行様が訪れる時期。


「貴方も判っているとは思うのだけど、引き受けてくださるわよね?」


 有無を言わせない態度でニコリと威圧的に微笑む。

 もちろん、拒否権はない。年上で身分の高い伯爵家だしね。

 どんな理由があろうとも頷くしかほかならない関係性ってこと。 


「まあ、嬉しいわ。これはお礼よ。ありがとう、フェルトンさん」


 強制的交代は対価があった。

 ラッピングされた箱には十数個の綺麗に並べられたキューブ状のチョコレートたち。

 伯爵家御用達の高級なお菓子といえるけど貧乏人には食べるのが勿体ない代物。

 こんなもの貰っていいの? と思っていたらまたノックが響く。

 今度は別の伯爵令嬢で同じような用件と判り、申し訳ないと丁重にお断りをした。

 するとまた別の令嬢が訪れ、結局3人ほど同じことを頼んできたという訳だ。

 何なんだ、一体と首をかしげていたが、その理由は翌朝知ることになる。

 どうやらアネットさんも同じように交代することになって来週一緒の班らしい。

 蓋を開けてみれば来週の別荘班は全て伯爵令嬢の方々になったとか。

 あの時、意味深に笑ってたのは公爵家のお相手として名のりを挙げるチャンスを窺ってたのか。

 ……この機会を得るためにフロンテ領の侍女になったという動機もあったらしい。

 なるほど働く理由がお金ではなく、婚約者狙いね。

 しかも私は一番年下だったし、頼みやすいから狙い目だったのか、うん納得。

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