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「ではセシリア嬢、お手を」


 ボルト様が私の手を取り、リードしながらステップを踏む。


 季節は春を巡り、来年の今頃であればアーデンは入学を果たしてある時期でもある。

 専属侍女として返り咲いた私はあれからアーデンの世話係として慌ただしくなってしまった。

 引継ぎした侍女たちはあの日以来姿を見ていないので食事や掃除など王都時代と変わらず一人で承っている。

 私だけでもさばけるから特に大変と感じることなく、人手が足りないわけでもないので特に申し出ていない。

 むしろ手に余っていた時間が充実して楽しいぐらいになっていた。

 それに前とは違い室内にある調度品が模様替えされ、華やかだ。絵画などの美術品も飾られている。

 本棚も設置され、書物もある限りいくらでも読み放題。

 残念ながら小説のような娯楽物はないが例の専門書といえる書籍を見慣れているアーデンにはちょうどいいのかもしれない。

 本を読み漁りつつ、時々何故か刺繍という合いの手を入れ、素振りの練習をする。

 以前よりグレードアップした生活環境を慈しみながら過ごす日々を送っていた。

 そして今、まだ数回目の下検分による視察ということで領地に訪れているボルト様の指導にダンスが追加された。

 実は侯爵家の三男だったというボルト様。どこか気品に満ちていたのは当たり前だったという。

 初回のお手本にと不慣れな私の手を取り、指導が始まってしまった。

 元貴族令嬢として全くダンスが身に付いてないと何度も足を踏んでしまう私に表情を崩さないとか紳士すぎる。

 慣れないことはするものじゃないと逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、相手役が私しかいないのが非常に残念。 

 そんな中、アーデンは熱心に立ち位置、角度、手順をしっかり覚えようと熱心だ。

 その日のダンス指導が終わった後ももう少しといって私と練習をしたがった。

 以前はただ向き合っただけで終了したダンスがどうやら形づき、背丈がだいぶ近くなったアーデンは一生懸命頑張っている。

 おかげで私も上手くなっていくという相乗効果もあったが。

 ボルト様も翌日には上達が指導以上に上回るから力不足になりそうだと憂慮し始めたらしい。

 騎士という立場から剣術に関してはどうにかなりそうだがそれ以外を不安視している。

 いくら爵位を持っていても私のように中途半端に習得している例もあることだし。

 これ以上は専門の方から学ばないと勿体ないと悔しがるぐらいだ。

 数少ない決められた時間の中での指導が充実したせいなのか、アーデンの集中力が優れて過ぎているからかは分からない。

 段々と自分の精一杯に近づいてくると限界が見えてくる。

 もっと教えてあげたいけど自分の知識には限界があってこれ以上は曖昧になってしまうという点。

 きっとボルト様も私と同じ気持ちなのだろう。

 領地から立ち去る時も可能な限りの課題を残していったがあっさりとこなしてしまったアーデン。

 だからこそ専門的知識を持つ人たちがいる。アーデンには必要な人材だ。

 その専門の方々は既に貴族教育の教師たちにいたらしく、今更ながら伝手はないに等しい。

 アーデンが知らぬ間にサボったとされる教育で解雇されてしまったのだから。

 王都時代からの流れを引き摺りながら愛想つかされているだろうから今更頼んでも引き受けてくれるはずもない。

 とはいえ、アーデンの現状は貴族として最低限の及第点には達していることが判った。

 これでギリギリ入学を認めてもらえればいいが願わくば余裕ある合格ラインには達したいところだけども。

 次回、ボルト様に会うとしても剣術以外の向上が厳しくなるだろう。

 私相手のダンスも足を引っ張るだけだろうし、気が付けばもう1年を切っている。

 そんな風に過ごすうちにそろそろあの時期が近づこうとしていた。

 そう、昨年はブランディンの策略ですっぽかしの汚名を着せられた例の休暇に。

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