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「羨ましいご身分だな」


「ああ、教師たちが無駄足だと毎回カンカンだ。時間になっても離れからは出てこないらしいとな」


「そうそう。馬を預かる時、いつも俺、睨まれるんだぜ。お前らと変わらんくせに生意気だ、だってさ」


「いいよな。貴族の義務とやらをサボって、そのくせ抜け出していることもあるらしいからな」


「全く、とばっちりもいいとこだぜ。ブランディン様と大違いだ」


「早くブランディン様が公爵を受け継いでくれればこんなことにならないだろうに」


「カーティス様もお忙しくていないから見逃している部分もあるしな」


「前公爵様も不在で好き放題だろうし」


「ああ、父親として負い目があるから仕方がないんだろ。エリオット様も自業自得だよ」


「いいよな。外側だけでも血をひいてりゃ食いっぱぐれることはないし、何やっても許されると思ってんだろ」


「全くだぜ。……まあ、どうせ野垂れ死にするような将来しか見えないから今の内だけさ」


「ははは。確かに」


 彼らは言いたいことだけ言うと休憩に入っていった。

 具体的な名前はでていないけど、アーデンのことだとすぐ判る。

 彼らにとってそれだけ苛立ちを覚える出来事が重なっているのだろう。

 内容からすると相変わらずアーデンは教育を受けていないようだった。

 離れから出てこない? 本当に出てこないと言えるのだろうか?

 タウンハウスの時のように軟禁状態の可能性は考えられないだろうか?

 でもここはグリフィス領。しばらくはエリオットが生活をしていたはずなのにそんなことをしても意味がない。

 抜け出しているとも噂があるようだし、だとしたらアーデンの意志で教育を受けていない?

 剣術でもあんなにも夢中になって取り組んでいたのにおざなりにしてるとしたら何を考えているの?

 けど教師たちは実際に教育をしていない様子。どうなっているのかさっぱりだ。

 あれから会わずに過ごしてから1カ月以上は経っている。

 それまではアーデンの噂すら耳にしなかった。その分、判らないことだらけで不安になる。

 すっかりと雨季に入っているが王都周辺はフロンテ領のようにはあまり降らない。

 ただ時折蒸すような暑さを感じるようにはなっていたがその日の夜はなかなか寝付けなかった。

 既に小屋での寝泊まりはもう慣れてしまったというのに昼間に聞いたアーデンの話題が引っ掛かる。

 いろいろと確かめたい。だけど屋敷自体の立ち入りが禁じられていた。

 唆したとされる私の扱いはアーデンとの接触を完全に断ち切られている。

 だからこんな端の端に追いやられて馬の世話をさせられているのだ。

 陰口を叩かれるほど元気そうなのは間違いないなさそうだけど、ただただ心配が募る。

 こんな末端でも話題が上がるほどアーデンの評判が悪いと判明した。

 それに随分とブランディンは慕われている様子も判った。将来の領主として下地は整っているようだ。

 この分だと近い未来本当に追い出しかねないハラハラの展開になっている。

 当事者でもないのにこんなにもヤキモキしてもどかしい気持ちが湧き上がっていく。

 ベッドに横たわっても妙に興奮してしまい、枕を殴りつけたものの収まらない。

 気持ちを休めようとここは眠くなるまで久しぶりに刺繍でもしてみようかな。

 しばらく肉体労働ばかりで針仕事なんてしていなかったので小さな明かりをつけて取り組むことにした。

 1時間ぐらい経った頃、ようやくあくびが出始めてキリのいいところで止めるつもりだった。

 ふと耳にカツカツと小さな物音が聴こえた気がした。

 風が吹いているのかと一応小窓から外を覗いてみる。

 部屋明かりだけで薄暗くよく見えないが人影を感じて明かりを照らす。

 次の瞬間、私は大慌てで外へと駆けだした。


「アーデン!!!」


 なんとそこにはアーデンの存在があったからだ!


「セシリア、やっと見つけた!」


 アーデンは私に抱き着くと嬉しそうに声を上げた。 

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