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本来小屋は日々誰かが交代で寝泊まりする場所で馬の見張り番として宿泊用に設けられていた場所だったらしい。そこに私が住むことになった。
備え付けの家具も中古だろうけどしっかりしている。
フロンテ領の侍女用の個室に近いかもしれない。扱いはまだ丁寧といえる。
もちろん食事も朝昼晩とちゃんと用意されていた。
この小屋から違う場所に使用人たちの建物があり、そこで支給されるようになっている。
荷物を置いた後、ジェフさんからここへ案内され、夕食をいただいた。
見慣れない私に他の使用人たちからはジロジロとした視線を感じたけど。
まあ、馬番として見られてるから遠巻きにされているのは確か。
おそらくこの世界の価値観として女性が馬の世話をする行為は恥ずかしいことに違いない。
しかも孤立状態に置かれた状況だけど残念ながらフロンテ領で培ったスキルで慣れている。
そもそも専属侍女という肩書きがあっただけで今までが楽過ぎただけ。
何て事はない。本来なら平民としてどこかで雇ってもらうはずだったから。
それよりもあの状況下で解雇されなかったのが不思議でしょうがない。
どうやら公爵家にはアーデンを手懐けた悪女のような存在として認識されたようなのに。
もしかすると現公爵であるカーティスとの誓約が影響しているのかもしれないけど。
結局、アーデンとはあの時以来会っていない。話すこともできなかったし、すぐに引き離されてしまった。
まあ、クビにならなかっただけでも良かったと思うことにする。
同じ場所にいれば何らかの噂は耳にできるだろう。それで元気かどうか確かめられる。
明日からは朝早くからお仕事開始だ。鋭気を養って早く寝よう。
翌朝、お仕着せとおさらばした私は汚れてもいいシャツとズボンという簡素な服となった。
それでも仕立てがいいのは公爵家だからだろうな。
朝食前に厩舎へと向かう。そこにはアーデンぐらいの年頃の少年が数人いた。
箒やブラシを持っている姿で馬のお世話係なんだと理解した。私はこの子たちから指導を受けるわけだ。
手始めに声をかけても睨まれてばかりで教えてもらえそうもない。
突っ立っていると邪魔だとばかりにぶつかられる。転んだ姿に嘲笑のまなざし。
なるほどこういう嫌がらせか。まあ、普通なら泣きそうになるよね。
でも私は慣れていた。これは前世の記憶があるおかげかもしれない。
堕落した父親のせいで周りからこんな風な扱いをされたことがあった。私も弟も。
小さい頃は泣いてたけどいつしか姉として弟を庇うようになっていた。
だけど成長するにつれて庇っていた弟が私に逆らうようになっていく。
ちゃんと守っていたはずなのに、捨てるんだろうと暴力を振るうようになって壊れた。
あの頃の苦い思い出がほんのり蘇る。
私は何事もなかったかのように立ち上がり、箒を持つ。
教えてもらえないのなら見て覚えるしかない。今は判る範囲で勝手に周りを掃除し始める。
その行動によって動揺したのは少年たちで反応のない私を諦めて自分の仕事をし始めた。
こういう時は最初が肝心。下手に怯えたり、逆らったりすると今後に影響する。
大人として毅然とした態度を貫けばいいだけの話。案の定、何もしなくなった。
当たり障りなく数日間、様子を見れば大体の動きがわかってくる。
馬の世話は段階を得てそれぞれの担当があること、次の作業に必要な行動などを把握した。
要領を得た私は補助的に少年たちの手助けをするようになった。
驚く彼らは最初は無視したものの、スムーズに作業が進むことを考慮してか黙ったまま受け入れるようになった。
早く終われば休憩時間が増えると理解し、仕事がさっさと片付く方がいいと気づいたのだろう。
冷ややかな目を向けられても全く反応を示さず、黙々と仕事をこなす私の存在はいつしか影が薄れていった。
決して会話に加わることはないけれど、私の近くで彼らは仲間内で話すようにまでなっていた。
そこで久しぶりにアーデンの話題を耳にした。




