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「この下女がそうです、父上!」


 ブランディンがいきなり立ち上がると私を指さした。

 注目を向けられ緊張感が走り、エリオットの視線が突き刺さった。


「フロンテ領の侍女長からの申し出通り、コレは貴族という立場を偽りながらフロンテ領に居座り続け、公爵家の財産に目をつけたために幼きアーデンを懐柔させ、思うがままに振舞っていた卑しい女です!」


 ちょっと待て! ブ、ブランディン!!! この男、なんてことを言うんだ!

 今までは存在を恐れていただけの人物だったけど、この発言で冷静になれたと同時に突然の疑惑にパニックになる。

 私がアーデンを唆して公爵家の金銭を強奪しようとしている、だって!

 もしかしてハーパーさんからフロンテ領での恨み辛みの仕返しが今ここにってこと?

 あっちこそ、私をこき使って好き放題だったじゃないか!

 けど根も葉もないってことはなかった。没落することは判ってて給金目当てだったのも確か。

 傍若無人ではないけれどアーデンの仕打ちに関しては許せなかったから強行した感もある。

 でもたがが元貴族侍女が何を言っても信じてもらえないだろう。変に言い返せない後ろめたさもあって口をつぐんでしまった。


「父上、ご決断ください」


 ブランディンがエリオットに迫る。

 

「下女に唆されて成長したアーデンは最早公爵家に相応しくありません! しかも学園にも入学する気がないらしい。これ以上の失態を晒さないためにも今こそ追放するべきです」


 エリオットはこちらを見据えたまま、ブランディンの訴えを聴いている。

 きっとこれを機にアーデンを追い出そうと目論んでいるのが判った。

 ブランディンにとって邪魔な存在のアーデン。

 だからこそ、わざとフロンテ領に行かせなかったのだ。

 しかも私の存在を上手く使って影で唆しているかのように責任を擦り付けてうまい具合で取り繕われている。

 本当にブランディンの狡猾さには参ってしまう。ここまで歪んだ人物だとは想像もしてなかった。

 けれど目の当たりにして納得がいく。小説での行動に。

 のちに太陽姫を支配するため傀儡にしようと禁忌に手を出してしまう考えに至るということが。


「アーデン、カーティスに誓ったのだろう? その侍女を雇い入れるために。なのに何故それを反故する」


「僕は全く反故した覚えはないし、誓いも破ってない。今もそれを継続してます!」


 声を荒げたアーデンの姿に驚く。いつも口数が少なく、あまり感情を表しにくいのにはっきりと主張するのを初めて見た気がした。

 しかも私を雇うためにカーティスと何か誓約していたことも初めて知った。


「だったらこれ以上、拒否するのはやめることだ。既に王都では醜聞が広がりつつある。そこで領地に移ってもらうことにする、これは決定だ!」


「父上! その程度では……」


「その侍女も領地で違う仕事をしてもらう!」


 きっぱりと言い放ったエリオットの前にブランディンが立ちはだかった。


「何故です! 父上は甘すぎます! ……やはり母が言ってた通りだ。父上は母から産まれた私よりも余所で産ませた方を可愛がっていると。実際、常に私を遠ざけるように過ごしていた」


「違う! ブランディン、それは誤解だ」


「いいえ、現にまた父上は領地へ戻られる。再び同じことをしようとしているではありませんか!」


 小説の中での過去でエリオットは当時夫人以外の嫡子が産まれたという醜聞から逃れるため領地に隠れた妻であるヴァネッサとの溝を埋めるために仕事の合間を縫いながら訪問を繰り返していた。

 ところが気位が高い故にエリオットを嫌悪し、面会を拒否し続けたヴァネッサと会うことが少なく、同じ領地内に囲われていたアーデンの母たちと会う機会を得てしまった。

 その光景を自然で仲睦まじい親子3人の様子としてたまたま目撃されてしまう。

 我が子よりも不義の子を選んでいるとヴァネッサにとってそれは衝撃な出来事として焼き付いてしまったためアーデンの運命が狂ってしまうのだ。

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