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 おかしいとは思っていた。

 毎年来訪するフロンテ領の休暇。これは公爵家の恒例行事だ。

 乗り気でないにしろ、公爵家の一員は形だけでも参加させられるのだ。

 たった1日の滞在だとしても全く顔を合わせなくてもこの地で一同が休暇を過ごしたという体裁を作るためのものでもあると考えられた。

 そもそもあの頃はアーデンと対面しないようにするためだけに過ごしたことをしっかり覚えている。

 最初の不覚以来、失敗は許されなかったからほぼ私とハーパーさんとのやり取りで何年もやり過ごしてきたのだ。

 故に気配すら消して誰とも接触せぬよう、だけど同じフロンテ領には存在した。

 だから表向きはグリフィス公爵家は家族との休暇を過ごした。

 その事実さえあれば何も問題なかったのだ。全く会うことはなくても。

 去年の春先、強制的に公爵家のタウンハウスへと戻らざるを得なかったアーデン。

 私が去らざるを得なかった後、この名目で再びフロンテ領には訪れていた。

 その期間、どんな風に過ごしたかは分からないけど屋敷内ではバラバラで過ごすことも可能なのだ。

 ただ体面上、家族で過ごしたという形だけはずっと続けていた公爵家。

 当然今回も形だけでも参加させられるとは思っていたのに。

 毎年の経験上、恒例の時期が来るということは身に染みついていたのだから。

 もちろんブランディンと同行することはないだろうからどんな風にフロンテ領に出立するのかと勘ぐってはいた。

 嫌がらせ的に心象を悪くするため、ずらして遅滞させられるのか、最悪滞在日数を減らされるかもしれないと覚悟はしていた。

 だけどまさか一切お声がかからないとは思っていなかった。

 恒例行事を体裁としてきたグリフィス公爵家。

 それを無視した形の行動をとったアーデンの図。

 この流れを考えればただでは済まない兆候だった。



「旦那様がお呼びでございます」


 早速、公爵侍女がアーデンを呼びに来た。期間的に考えて休暇を終えた直後だと思った。

 多分フロンテ領から戻ったその足での呼び出しだろう。

 神妙な面持ちで事の流れに息を呑むが、アーデンは気にした様子もなく、部屋を出ようとする。

 私は頭を下げて見送ろうとしたが『あなたも同行するようにとのことです』と告げられた。

 何だか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 そういえば本館の方に向かうのはいつぶりだろう。マーデリンのお出迎えが無くなってから久しい。

 静かな廊下をただひたすら付いていく。重苦しい空気を感じてしまう。

 やがて案内された部屋に入るとアーデンの後ろに控える。

 アーデンと相対したその先には何と少し年老いた紫の瞳を持つ男性が座っていた。

 間違いなくグリフィス公爵家の前当主であったエリオットに違いない。

 ハニーブロンド色の髪は薄らいで銀色がかり、目じりにしわが見られるが整った顔立ちは息子たちに似ている。

 カーティスやブランディンが年老いたらこんな感じに近くなるのだろうな。

 一瞬、目が合ってしまったが慌てて頭を下げて腰を低くした。

 その傍らにブランディンも座っているがこちらを見ていない。カーティスはいなかった。


「何故、呼ばれたか解かっているだろう」


 抑揚のない低い声が響き渡る。貴族としては感情のない声音は当たり前だけど、冷たい印象を受けた。

 つまりはお怒りだということを知らしめさせられている。

 

「それに、貴族教育を受けてないそうだな。教師たちが何度も訴えてきている」


 エリオットの表情は無のまま。だけど紫の瞳だけが鋭い眼光を飛ばしていた。

 本当は事実とは異なるのに休暇をすっぽかした上、教育を受けていないと認識されているらしい。

 不意にブランディンが一瞬だけ、口元を緩めたのが窺えた。

 エリオットの言葉をアーデンの後ろ姿からはどういう風に受け止めたのか様子がわからない。

 でも真実を知っている私はこの状況に納得がいかなかった。


「それは違います!」


 しまった!と思った時には声が出てしまっていたのだ。

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