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数カ月間による5回ほどの護衛騎士様からのご指導。
このおかげでアーデンの剣術に対する能力がものすごく上がったと観ているだけでも感じる。
騎士様はおさがりの木刀を数本寄付してくださり、やっと正規の武具を持てることになった。
私も持たせてもらったけどまずは重さが違う。そして曲がっていない。木切れとは全く違うその武器に感動した。
アーデンも手に入れた時から暇さえあれば握っているらしく、手にまめができているのが判る。
基礎の基礎しか教わらなかったけど、体力づくりや正しい取り組みは為になった。
真剣を握ることは程遠いけどたしなみの初歩としてはクリアできたのではと思う。
ようやく太陽姫の影なる支えが実現した。でも、これに関しては剣術だけ。
もちろん騎士様がいる時にと貴族男性のたしなみに関しても伺いたかったけど、剣術に没頭しているアーデンをみっちり見てもらいたかったため、遠慮してしまった。
やがてそうこうするうちに春が来た。いよいよ入学の季節である。
御年16歳を迎える優良な貴族の子息令嬢たちは学園に通うこととなる。もちろん王族も。
当然、二人が入学したからグリフィス公爵家へ来訪の機会が目減りし、覚悟はしていたが騎士様の指導すら受けられなくなっていった。
もちろんそれきり訪問者もなく、私と二人だけの空間。変わり映えもしない空虚である時間。
思いのほかブランディンの妨害が完璧でマーデリンとの接触が短すぎた。
この流れでこのまま進んでいけば貴族教育は皆無。学園入学だけの話ではない。
世間から取り残されたような放置扱いで間延びした日々を何だか私の方が焦りを抱えてしまう。
そんな中にも拘らずアーデンは前向きで楽しく過ごしていた。
「セシリア、見て! 両方でもできるようになった!」
基礎の基礎しか習っていない素振りを利き軸でできるようになったら同じように反対側でも行い、身に付けた様子。
かじる程度の土台をここまで広げる応用力はすごく、既に次のステップに進めるはずなのに本当に飽きず繰り返す行動力は脱帽ものだとつくづく思う。
さすが主人公の器なんだと何度も実感させられてしまう。
私なんて貴族だったはずなのに貴族の身のこなしも危うい存在だったのだ。学園内でも気づかずにきっと浮いてたのかもしれない。
でもその分、平民に馴染みやすくなってたのかもしれないけど。
今は新緑が生き生きとし始めて春の終わりを告げている。
裏方として一人で押し付けられたあの準備期間を乗り越えてもう一年になるのか。
あの時はアーデンと別れ、平民として見守っていくと決意して落ち込んでいたな。
まさかこんな風に一緒にいることになるとは思いもしなかった。
過酷な年月からのんびりと穏やかな時間が流れているのが不思議である。
とはいえ、学園入学までに貴族教育をこなしていないと入れない状況は変わってない。
もう2年を切ってしまったのだ。悠長に過ごす時間はない。
現状は変わり映えもせずに恒例の時期を過ごさなければならないのだ。
ともあれ、季節はあの時期に近づいていた。空気も景色もいい頃。
毎年恒例であるフロンテ領の休暇だ。当然だけど公爵家一員の来訪は必須事項。
もしかすると私は曲りなりにもアーデン専属なので付いていかなければならないことだろう。
正直気が重い。私にとっては元職場。厄介払いという形でフロンテ領から出てきたのだ。
悪いことはしていないがお互い気まずいのは間違いない。どの面下げて顔を出さなければいけないのか。
できるなら同行は遠慮したいが、アーデンを守るためにもそばにいる必要はある。
来る日に備え、敵地に臨む気持ちでその日を待っていた。
だけどいくら待ってもその日を迎えることはなかった。
休暇も終えただろうという頃にようやくこのことがブランディンの仕業だったと気づいたのだ。




