14
心苦しい気持ちで新年を迎えた。
その日もいつものように遊び程度にしかならないであろうチャンバラごっこをしていた。
本来なら正規の武具を使い、しかるべき指導者に付き、適切なアドバイスを貰って修練に励むことが望ましい。
独学といえば聞こえがいいけど、それには程遠い真似事をしているだけ。
そんな時間を数カ月過ごしてきて年を越えてしまったのだ。
もちろん悪いことだけではなく、3食与えられる十分すぎる食事でアーデンの肉付きが良くなった。
背はあまり変わらなかったが、やっと年齢相応の体格に近づいてきた気がする。
私の分も朝と昼が用意されているため、ここでは大して働いていないせいかちょっと太ったようだ。
夕食を調整することで今の状態をどうにか保っているのでもっと動き回りたいのが本音。
フロンテ領での少ない食事にこき使われまくった生活に比べれば、家までの往復とタウンハウス内での移動だけでは運動不足ともいえる。
軟禁状態に近いこの生活はきっとアーデンにとっても物足りないだろう。
秋以降、太陽姫との接触が断たれ、完全孤立したと思える状況に陥ったアーデン。
本来なら今はもう影なる支えを受けて貴族教育に励んでいるはずだったと思うのに。
私がフォローしようと勝手に動いたばかりに流れがおかしくなったのかもしれない。
数か月後にはマーデリンとブランディンが入学する。
学園で二人はほぼ毎日会うようなものでタウンハウスでの訪問は限られてくるといえる。
影なる支えを得てこそ、アーデンの貴族教育が始まるというのにその道標がない。
今なら外部依頼の計画が実行できると思うものの、もっと流れがおかしくなったらどうしようと不安感がぬぐえず動けずじまいだ。
日々できることは単調でそれでもアーデンは楽しそうに過ごしているのが救いである。
このままの状態が続き、入学できなければどうなっていくのだろう?
小説の流れではマーデリンの影なる支えでどうにか貴族教育を身に付け、学園入学を果たす。
入学後、構内でやたらとアーデンを気に掛けるマーデリンに思い通りにならないとブランディンは嫌悪を抱く。
アーデンを排除したいブランディンと支えようとするマーデリンとの対立が悲劇を呼ぶ。
王女である彼女さえ自分の思い通りになれば全てがうまくいくと判断したブランディンは母親から訊いていた禁忌に手を出してしまう。
禁術を使ったブランディンはマーデリンを傀儡にしようとするもアーデンが庇ったために失敗する。
この山場ともいえる分岐点があるからこそ二人は真実の愛に辿り着けるのだ。
アーデンの入学によって進んでいく流れ。
ハッピーエンドを迎えるためにこそ入学に必要な貴族教育を習得しないといけない。
私が関わるとアーデンは貴族教育から程遠い知識を得てしまう。
だからこそマーデリンの支えが必要となってくるのにほとんど時間が残っていない。
どうしたら、いいのだろう?
気持ちが沈みそうになりながら受け身をしている途中でノック音が聞こえた。
年の瀬から誰も近づくことが無くなった部屋。
私以外の出入りしかないはずなのに今さら? もしかすると何か急用が?
アーデンに断りを入れて疑い深く扉へと近づく。
念のため、外を確認するように少し開けて伺ってみるとそこに立っていたのは公爵侍女ではなく男性。
一瞬、誰だろうと思考が停止したものの、着ている服装から王女の護衛騎士だと判断した。
「何の御用でしょうか?」
「あまり時間がありませんので、中へ入れてもらって宜しいでしょうか?」
周りを窺うようにしながらも礼儀正しく問いかける護衛騎士様。
こんな辺鄙な場所に案内もされず、一人で訪れて周囲を気にしている様子。
しかも護衛としては当たり前だけど帯剣しているのに目がいってしまう。
不安感を覚えながら背後に隠すように持っていた棒をぎゅっと握りしめていた。




