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13

 麗しい姿に緊張しながらも太陽姫に声をかける。これはチャンスだ。今しかない。


「……あの、大変おこがましいのですが、お声がけさせていただいて宜しいでしょうか?」


「何かしら?」


 マーデリンが首を傾げながら優しく微笑む。高貴な身分なのに受容の空気感がすごい。


「はい。実はお願いがございまして……」


「何をしている!」


 話を切り出そうとした矢先、鋭い声が割り込んでくる。

 この声音は言わずもがなブランディンだ。


「立場を考えず失礼にもほどがある。……さすがアーデンが望んだ侍女だな」


 ブランディンが睨むようにしてアーデンを見つめる。

 突然の登場に私は慌ててガゼボの端に移動し、頭を下げた。

 何てタイミングで現れるんだ。しかも私のせいでアーデンに難癖つけられた。

 アーデンも立ち上がると私の横へと並び、頭を下げた。申し訳ない。


「さあ、マーデリン、もうここは風が冷たくなってきているようだ。場所を移そう」


 有無を言わさず、ほぼ強引とも思える状態で太陽姫を誘導するブランディン。


「貴方にまで得体のしれない病をうつされては大変だ。さあ行こう」


「待って、ブランディン。私はお話ししたいの」


 太陽姫の凛とした態度。だけどブランディンは矛先を変えた。


「……お前たち、いつまでいるんだ。さっさと下がれ!」


 怒気をはらんだ声にこれ以上ここにいると迷惑がかかると慌てて深く頭を下げてその場を去っていった。

 太陽姫は話を訊こうとしてくれたのにせっかくのチャンスが丸つぶれになり、失望してしまう。

 このままでは教育を頼むどころかますますブランディンの心証を悪くしてどうしようもない。


「申し訳ありません。私が出しゃばったことをしてしまったばかりにアーデンに恥をかかせてしまいました」


「別に気にしてないよ。それより、棒を構えてくれる?」


 部屋に戻ってから頭を下げた私に棒を突き出すアーデンはにっこり微笑んだ。


「僕はセシリアと過ごせる時間だけが大事なんだ。だからそれ以外は気にしない」


 両手で木片を構えるアーデンは高い位置にある棒めがけて打ち付けた。

 そうやってしばらくチャンバラごっこをしているうちに萎んだ気持ちが遠のいていく。

 アーデンのように焦らず、日々できることを大事にしていけばいいんだと改めて思った。

 こういった前向きな姿勢がどんな環境下でも耐えられるから主人公なんだ。

 それにマーデリンもアーデンのことを認識していて心配するような存在だと判ったし、これから先はコトが動くのかもしれないと期待した。

 けれどこの日をきっかけに最悪の事態を迎えることとなる。

 翌月に入ると太陽姫の来訪を知らせる侍女が来たのにも拘らず、『具合が悪そうですね。お迎えは結構です』と有無を言わさず判断された。

 驚くことに公爵侍女から来訪知らせの度、それを繰り返され、その月は出迎えと見送りをせずに過ごすことになる。

 やがて年の瀬も近づく頃、最終的には侍女さえ知らせに来なくなってしまった。

 もちろん外での抜け出し計画も停止中のまま、今か今かと太陽姫の支えを待っていた。

 ところが事実上、ブランディンから罵声を浴びせられて以来、太陽姫のお出迎え、お見送りは無くなっていた。

 気が付けば何も進まないまま今年が終わろうとしている時期。

 つまりは私が余計なことをしたばかりに認識を行なえる太陽姫との唯一の接点を絶たれてしまっていたのだ。

 こんな流れになったのは私のせいなのかもしれない。

 先を知っているからとその展開にならないことに狼狽えた私が焦ったために動いてしまったから?

 今まで貴族教育が受けられないからと屋敷から抜け出せる工作を試みたり、直接太陽姫に声掛けしたために関わりが断たれたりと全てが水の泡になってしまった。

 結果、私がコトを起こそうとしたために何となく妨害された気持ちになる。

 やはり所詮は小説に出てこない人物である私は動いてはいけない存在なのだろうか?

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