4
翌日、フロンテ領に向けて出発のため、公爵家に集合した。
馬車が5台ほど用意されており、荷物を積み込んで相乗りで出発すると説明があった。
またそこで異変を感じる。明らかに乗る人数が減ってるから。
昨日の時点では4人であったはずの相乗り人数は2人。
そんな雰囲気を誰も気にすることなく、明らかに目減りしているだろう人数に疑問を抱きながらも出発した。
相乗りの相手は同じ子爵令嬢で落ち着いた雰囲気を持つアネットという年上のお姉様。
既に学園を卒業していて近々結婚する予定でその前に箔をつけるためにふた月ほど勤めるらしい。
働く理由は人それぞれだけど、ふた月だけでも雇う公爵家って寛容すぎる。
支給品も給与もちゃんと出すんだし、太っ腹というか。
彼女も憧れの行楽地で働けるのが楽しみだといって意気投合し、話が盛り上がって良かった。
特に不自由することなく快適に過ごせた時間だけど、フロンテ領は思ったより遠く、馬車で二日掛けようやく到着。
もちろん中継ぎの宿泊先も公爵家所有のお屋敷で至れり尽くせりで感激したのはいうまでもない。
働くために移動してるのにもてなされてる感が否めない。
少し罪悪感を覚えながらもフロンテ領への道中は本当に夢のようだった。
馬車を降りてからの第一印象は空気がすごく綺麗だってこと。
深呼吸して心洗われたというか、自然豊かで濁りがないっていうか。
遠くに見える山々は太陽に反射して緑の山肌を見せ、霞んだような雲が浮かんでいる。
春らしく木々や草花は生き生きと芽吹き始め、花が開花し始める素晴らしい景色。
木々の途切れた場所には小さな湖がぽっかりと浮かび、透き通った水の上には鳥が泳いでいる。
噂で訊いただけのその場所は本当に綺麗ということを目の当たりにした。
自慢話のタネになるのも無理はなく、有名になるはずだと納得せざるを得ない。
こんな素敵な場所で働けるなんて幸せだと心から思った。
まず最初に別館と呼ばれるの建物に案内された。
1階にある長テーブルの置かれた広い部屋に集められ、休憩と称したティータイムを挟む。
今後はここでご令嬢方とともに食事の場として利用するらしい。つまりは食堂ってことか。
茶髪を撫ぜつけ、口ひげを綺麗に整えている気難しそうな男性が現れ、この別荘地の管理人だと挨拶した。
普段はフロンテ領内を転々として月に一度程度しか顔を出さないらしいがここでは一番偉い人だと反り返ってた。
常駐として雇われている人たちは料理人と侍女長、侍女二人と庭師の5人しかいないらしい。
何だか思ったより使用人の数が少ない気がしたけど、そのためフロンテ領配属人数の割り当てが多かったに違いないと理解した。
ハーパーと名乗った侍女長を先頭にぞろぞろと後について部屋に案内される。
3階建てになる室内は玄関から階段が伸びて2階と3階にそれぞれの個室があり、そこで寝泊まりして住み込むようだ。
手荷物は既に部屋に運び入れてるらしく、手際の良さに驚く。
お仕着せに着替えて1時間後に食堂に集合ということで解散した。
使用人専用の別館とはいえ、さすがはお貴族様。
一人ひとりには十分な個室で立派な家具が設置してある。
ベッドに机、椅子、ドレッサーにチェスト、クローゼットなどの調度品が飾られ、高級そうなものばかり。
用意済みとされた支給品も机や引き出しなどに収められている。
ただ最低限らしく、足りないものなどは伝えれば追加したり、用意するらしい。
それでもすごい品揃え、全て使っていいとは太っ腹すぎる。
クローゼットを開けると黒いワンピースのお仕着せが2着ほど掛けられていた。
それを取り出すとすぐに着替え、引き出しに入ってたエプロンを纏う。
悲しいことに着ていた草臥れたドレスより立派すぎるのがショック。
ドレッサーに映る自分の姿に感激し、頑張って働くぞと気合いが入った。