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 翌朝、パン屋と八百屋のひと仕事だけを終えた後、グリフィス公爵家と向かった。

 場所はタウンハウスだったため、時間的にもいい頃合いと何かをして気を紛らわせたかったこともある。

 少しでも小銭を稼ぎつつ、給金のことを言及されたらこの分も加算できるし。

 一応、爵位を保持している間に勤めていたと主張しておこう。

 元々フロンテ領は数カ月で辞めていくという貴族侍女の巣窟。

 それを7年間居座っていたことはしっかりと謝罪して、それ相応の罰は受け入れようと思う。

 でもただの給金泥棒って訳でなく、きちんと働いてきたのも事実だ。

 それを証明できないのが口惜しい。ハーパーさんがどうとでも言えるから。

 立場の弱い人間なのには変わりない。情状酌量の余地を求められないのが悔しいところ。

 今は収入面でも不安定だし、早めにちゃんとした働き口を定めないと。

 もういざとなったら捨て身でも酒場で働こう。いい歳こいた女が躊躇する必要もないかも。

 平民になり下がり、婚期を逃した年増に目を向ける相手など、たかが知れてる。

 そう奮起しながら歩いていると立派な門構えが見えた。

 タウンハウスといえどさすがは公爵家。王都内で戸建てとなる住居として所持されるぐらいの権力を持つ。

 王都外れの借家の我が家よりも数倍も大きい。フロンテ領の別荘と同じぐらいだろうか?

 紋章入りの封書を持って門前に立つ守衛に声をかければ、すぐに裏手に回され、案内される。

 そして建物内でも一番隅っこにある2階の部屋の前に立たされ、こちらですとここの侍女に言われた後は置き去りにされた。

 目の前にはいい木で作られたであろう公爵家らしい立派な扉がある。

 普通ノックして来客って知らせるのが侍女としての役目のはずなのにどういうこと?

 思わずキョロキョロと周囲を見渡してもシンとしていて誰もいない。

 ただ歩いてきた長い廊下と少し離れて続いていく隣接する部屋の扉が見えるだけ。

 もしかして小説でのブランディン至上主義が影響してカーティスが公爵になってから舐められてる状況とか?

 私が咎められるために来訪してるはずなのに公爵家の主人に対してもこの態度で大丈夫なの?

 ……それともアーデンの存在についての口留めとして秘密裏にコトを済ますため、殺し屋とかいたりする?

 いろいろな憶測が過ぎる中、警戒しつつもとりあえず中にいると思われる人に対してノックを向けた。

 物音がした気がして少し開けてから声をかける。


「すみません、セシリア・フェルトンと申します。失礼してもよろしいでしょうか?」


 返事を待たずして扉が大きく開かれ、体当たりするようなドスンとした衝撃が走る。

 バランスを崩しそうになる身体を支えつつ、咄嗟に絡みついてきたものを受け止める。

 ギュッと抱きしめられた感触には充分覚えがある。


「ア、アーデン?」


「セシリア、黙っていなくなるなんて酷過ぎる。またすぐに会えると思ってたからあの時、王都に向かったのに」


 アーデンは上目遣いで睨みつけた。アメジストの瞳が揺らめてドキッとする。

 久しぶりに再会した姿は貴公子っぽく見えた。

 ボサボサだった長髪は短く切られ、褐色の肌と整った顔立ちを露わにしていた。

 痩せ気味の体格は変わってないがあの頃のお古を縫い直して作り上げたものとは異なり、着ている服は仕立ての良いものだと判る。

 案内された過程といい、使用人たちの態度は好意的ではなさそうだけど、扱いはフロンテ領とは雲泥の差だ。

 思ったよりは酷い環境ではなさそうだと確信してホッとする。

 ただ、ひと気がない様子は屋根裏部屋にいた時と変わりなさそうで一人きりで過ごしているのが感じられる。

 そんな心配をよそにアーデンは毅然とした態度で私に言い放つ。


「これだけは譲れないと公爵に懇願したからここで働いてね。……僕の専属侍女として」


 驚く私を捨て置いてアーデンはニコリと微笑んだ。


「セシリアは僕を幸せにしたいって言ったよね? だから僕のためによろしくね」

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