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 案の定、こんな時期にいいものなんて残っていなかった。

 まだのんびりしていいという両親を説き伏せ、就職活動を始めた。

 翌日、お父さまと途中まで一緒に王都近郊に赴き、働き口を探しに職業斡旋所へと向かった。

 まず侍女経験を生かしてと探してみたものの、今の時期は本当に見当たらない。

 もう少し早い春先ならあったかもしれないと相談口の人に咎められた。

 それと同時に夏頃辺りならこの春勤め始めたお屋敷では空きが出るかもしれないと。

 でもそういう勤め先はあまり待遇がよろしくないらしいとくぎを刺された。

 どうしてもすぐに働ける場所を求めるのであれば酒場辺りしかない。

 もちろん夜の就業ともなり、帰宅が不安定でさすがに両親が心配するので無理だろうな。

 あとは日雇いか個々人で募集された張り紙を探すしかないとのことだ。

 こまめに顔を出して条件のいいところを待つか、張り紙で見つけるしか今のところはないらしい。

 いかにグリフィス公爵家の侍女が最上の好待遇だったのかと身に染みて感じるがそれは短期間内での話。

 とにかく粗雑な扱いに関しては耐性はあるからある程度は大丈夫といえるけどないものはない。

 ここは本命を待ちながらもちまちまと張り紙を探して動くしかなさそう。

 ガッカリしながら借家に戻り、とりあえず地道に探していくことにした。


「パン屋に八百屋に、定食屋か……」


 数日経った頃、張り紙を頼りに目星をつけた働き口の候補である。

 ほぼ毎日出歩きながら町の様子を窺う日々を過ごしてため息をつく。

 早朝のパン作りの手伝い、野菜の配達、昼食時間帯の接客。

 どれも時間が短く、お駄賃程度で収入面においては少ない。

 もういっそのこと全部掛け持ってやってみるとか? 

 そうすれば1日分の給金としては及第点に値する。どうせ日払い程度の雇い扱い。

 当分はいい仕事も見つかりそうもないし、そうしようかなと気持ちを固めた。


「あんたみたいな貧相な身体で力仕事ができるのかい」


 どのお店も胡散臭そうな顔つきで対応されるものの、その場限りの日雇いだからと働けることになった。

 ついにフロンテ領での使用人の小間使い扱いや臨機応変能力を発揮する時が来た!

 パン屋では成形を手伝い、焼き上がりを店頭に並べる。

 八百屋では午前と午後、籠や風呂敷を駆使し、まとめて個々の配達場所へと野菜を運ぶ。

 飲食店では来店した客に素早くオーダーを取り、出来上がった食事を提供する。

 予想外の働きぶりに個々の店主たちは驚いた様子だった。

 すぐに気に入られたせいか、前日の売れ残りのパンや売り物にならない野菜、賄いなど給金以外のおこぼれが貰えるようになる始末。

 日雇いでなく、正式に雇ってもいいと声をかけられたりもした。

 本命待ちだと伝え、掛け持った店に不公平感を与えてはいけないと思い、どれも丁重にお断りを入れたけど。

 とりあえず夏までこんな調子で様子を見つつ、過ごしていこうと思っていた。



「セ、セシリア……」


 すっかり花の季節は終わり、青々とした葉が勢いを増し始め、天気のいい日が続いている初夏の夕刻。

 慌てた様子で血相を変え帰宅したお父さまが片手に何かを握りしめ、息も絶え絶えに叫んだ。


「グ、グリフィス公爵家から問題があるとのことで早急に来訪するようにと伝書が届いた!」

 

 お父さまの手にはいつぞや見たグリフィス公爵家の紋章が象られた封蝋の押された立派な封書がある。

 まさかフェルトン家の平民落ちがバレて誤魔化しながら勤めていたことが発覚してしまった?

 時期的にもフロンテ領休暇後だし、ハーパーさんがブランディンに訴えたとしてもおかしくない。

 せっかく平民となり安定した日々を送れるようになってきたのにここで呼び出しとは。

 今更給金を返せと言われてももう無理な話。手持ちは日払いで貯めた給金のみ。

 またもや借金を抱える羽目になるってこと? ようやく身ぎれいになったというのに。

 何とも言えない不安が漂い、ただただ息を呑んだ。

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