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 しばらくしてフロンテ領に貴族侍女たちを乗せた数台の馬車が到着した。

 それと入れ替わるように私はここを立ち去ることにした。当然、見送りなどない。

 手持ちがなかった私にとって乗り合わせてもらえるのはラッキーだったといえる。

 下手をすると最悪、徒歩での帰郷となってしまうところだったからだ。

 既に荷物はまとめてあったし、すぐに発つ準備は整っていた。御者に頼み込めて良かった。

 行きは数日かけてフロンテ領に着いたけど、帰路に関して令嬢を載せない馬車はスピード重視。

 さすがに1日では着くことはできないので休憩がてらの停泊はあった。

 それでも強行に近い形で公爵領地へと向かう馬車は途中途中で数を減らしていった。

 元々中継ぎ領地から派遣されたものらしく、最終的には1台のみとなっていた。

 まだ明るい時間に王都に近い場所で下ろしてもらい無事に戻ってこれたのは幸いだったと思う。

 

「ただいま!」


 7年ぶりの借家に着く頃にはとっぷりと日が暮れていた。


「セシリア!」


 私の突然の帰郷に両親は驚きながらも温かく迎え入れてくれた。

 久しぶりの再会に顔を確認しながら抱き合っていく。

 お互いに苦労したのかもしれないけど、二人はすっかり貴族らしさなど皆無となっていた。

 日に焼けた肌や荒れた手、少しやつれた顔など随分と年老いたように見えた。


「すっかり大人っぽくなって。苦労を掛けたな」


「おかえりなさい。お茶でもどうかしら」


 それでも暖かい雰囲気は変わっていない。どこか安心した。


「どうにか貴族の矜持は果たせたよ。ありがとう、セシリア」


 私の給金と両親の働きによってようやく借金問題が解決したらしい。

 これで晴れて爵位返上を行ない、これからは平民として生きていくことができる。

 もう借金に追われることはなく、贅沢をしなければ今までよりマシな生活が送れるみたいだ。


「これからはセシリアの将来のことを考えなければいけないわね」


 お母さまが小さく笑う。

 私はもう23歳になっていて誕生日を迎えれば24歳だ。妙齢は超え、この世界観ではすっかり行き遅れという年齢である。

 ハーパーさんの娘二人もいつの間にか結婚してたし、ステラさんは子どもを成していた。

 侍女として来なくなったアルマさんやニコルさんもきっと子どもが生まれたのかもしれない。

 貴族令嬢といえば大体が20歳までに婚約か結婚をしている。

 後継を産むという立派な役目を果たさなければならない政略結婚が主流だから。

 そうでない場合は訳ありとみなされて社交界に居づらくなり、もっと望まない婚姻が進んでいく。

 適齢期を過ぎた女性の扱いは過酷を強いられて当たり前の常識となっている。

 

「私が巻き込んでしまったばかりにセシリアの幸せを奪ってしまった」


 お父さまがこぶしを握り締めながら俯く。

 貴族侍女として働き、アーデンと共に必死に生きてきた年月は女性としての価値を失わせていたに違いない。

 突きつけられた現実に今頃気づいたけど、私は全然後悔していない。

 何より前世では晩婚化が主流でこの歳では十分に若いから。

 むしろ結婚すらしてなかったかつての私はまったく気にしていない。

 家族に恵まれず死んだ前世の私より、今世で両親と共に平民としてやり直せる時間の方が大事だ。

 歳を気にして焦るよりも今現在をしっかりと生きたい。


「お父さま、私はフロンテ領で奇跡を経験し、充分幸せに過ごせてこれましたよ。だから落ち込むことはありません。お母さま、ご縁は神様にお任せすることにして、今はこの時間を大事にしたいわ」


 むなしく死んでしまった私に与えられた希望の今世。

 あの日、あの時、フロンテ領で働くことにならなかったら出会うことすらなかった奇跡の瞬間。

 自分で選択してここまで歩んだ道のりは私にとっては十分に幸せを感じさせられてきた。

 そしてこれからもそうして生きていくんだと、私はにっこり微笑んだ。

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