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「食事をお持ちしましたよ、アーデン」
昼食の時間となり、料理を持って屋根裏部屋に来たものの、アーデンの姿が見えない。
周囲を見渡しても気配がない。ここから出るはずがないのにどこに?
まさか、家具が埋め尽くされた隙間に挟まっているのでは! あの小さな身体だから有り得る!
慌てて家具周辺に近づき、念入りに覗き込んでいるとどこからか笑い声が聞こえる。
「セシリア、ここだよ」
上の方から声が聞こえ、見上げると、むき出しになっている梁につかまっているアーデンの姿。
「あ、危ないですよ!」
「大丈夫だよ、ほら」
アーデンは梁からぶら下がり、積まれた家具の上に飛び降りるとあっという間に私の元にやってきた。
夏以来、外に出られないことを心配していたのにアーデンは楽しそうにしていた。
私の着回したドレスを何枚か作り替えたズボンと見つけた布で簡易的なシャツにしたものも着こなしている。
元々シャツは黄ばんでいたが今は真っ黒に汚れている。梁に溜まった埃などが付いたせいだろう。
「真っ黒ですよ。着替えてください。あと水も汲んできますから手も洗いましょうね」
そう言い残すと外に出てバケツに水を汲んできた。
着替え終わったアーデンは階段を上ってくる私を見つけ、バケツを持とうとする。
片手分だけ手伝ってもらい、手を洗わせてるうちにトレーに運んだきりの料理を並べようとテーブルに向かう。
でもそこには綺麗にセッティングされた料理があった。
「布を使って触ったから汚れてないよ」
手を洗い終えたアーデンが得意そうに言う。拍子抜けで何というか、ポカンとしてしまった。
食事を終え、トレーとバケツを持って降りようとすると、
「セシリア、バケツは置いておいて」
そう言って引き留められたのでその通りにした。
一通り、仕事を終え、夕食を持って屋根裏部屋に戻ってくると驚いた。
普段から目につくところは大体掃除をしていたけど、天井全体が妙にすっきりしている。
蜘蛛の巣があり、薄汚れていたのは知っていたけど手が回らないから放置していたのも事実。
それなのに綺麗になっていて夕暮れの時刻なのに心なしか明るく感じてしまう。
対照的にどんよりとした様子でバケツの前で小さく蹲るアーデンの背中に近づいてみる。
よく見るとシャツは再び真っ黒でバケツの中の水も真っ黒。どうやらアーデンの仕業らしい。
「また汚してごめんなさい」
しょんぼりしたまま、申し訳なさそうに謝るアーデンに何だかほっこりしてしまう。
「構いませんが、どうしてこうなったのですか?」
「……試してみたくなったから」
詳しく訊けば読み聞かせていた心得本の内容に書かれたことを実践したらしい。
梁の汚れが気になり、登れそうだと判断し、掃除をしてみたくなったとか。
昼食後は夢中になって磨き上げ、気が付いたらまたシャツを汚してたみたいで。
一度着替えたばかりなのにもっと汚してしまったと落ち込んでいたらしい。
「大丈夫です。こちらにお着替えくださいね」
汚れて昼間に洗濯したシャツが乾いていたので手渡す。湯浴みの際、また洗えばいいこと。
バケツの汚れた水を持って外で入れ替えて戻ってくるとテーブルセッティングが完了していた。
夕食を終え、後片付けをし、湯浴みの準備が整ったところでアーデンを洗い場へ。
洗ってみたいとご所望するので汚れたシャツを手渡すと満足そうに洗濯した。
それからというもの、バケツに水を汲んでおくことを要求されるようになった。
日に日に綺麗になる屋根裏部屋。完璧なテーブルセッティング。湯浴みの際の洗濯。
近頃は針仕事まで手を出してくるようになっていた。アーデンの女子力が上がりっ放し。
これでは侍女見習いまっしぐら。何だか私の仕事、盗られてない?
公爵家としてはどうなんだと思いつつ、夢中になっているアーデンを止められない。
彼が望むことは何でもさせてあげたい、それだけしかできないから。




